銀座人インタビュー<第3弾>
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第3弾〉銀座の文化「和の遊び」
新橋金田中若女将岡副徳子様 × 東京画廊ディレクター山本豊津様

料亭での遊び方

山本:今、お客様の楽しみ方って、相当変わってると思いますか。

岡副:料亭も金田中のような所は、昔は8〜9割ぐらい接待に使っていたんだと思うんです。そうすると、本当にお皿をひっくり返して楽しむというのではなくて、いかに接待してる側が来たお客様を喜ばせて、しっかりとおもてなしするかということが主になりますよね。でも、最近はそうではなくて、本当に楽しみでいらっしゃるという方が少し増えてきましたね。だから昔に帰ったのかもしれないです。昔もそうですよね、もともとは。

山本:接待でというところもあるけど、飾ってある絵や出てくる器に対して昔のお客様はうるさかったと思う。

渡辺:床の間にどういうものが飾ってあって、それはどんな関連性なのかということ、五感を通して感じた情報を読み解いていくところに、遊びの面白さがありますね。
 今はどういう楽しみ方があるんですか。はたから見ていて「しゃれてるな。いい宴会だな」というのは。

岡副:料亭は年齢層が高くなってしまっているので、敷居が高いと感じられているようですけど、皆さん興味はお持ちのようで、若い人たちは、「昔やってたお座敷の遊びを教えてください」ということが多いですね。昔はきっと料亭ぐらいしかなかったと思うんですけれども、今はいろんな娯楽があるので、足が遠のいているのかもしれません。

山本:遊びには文化があって、例えば金田中さんに行くと、そこにまず畳があって、床の間があって、空間自体がひとつの象徴的なスペースになっているわけね。そして、床の間に何が飾ってあって、どんな花が生けてあって、それでどういうお料理が、どういう器で、どういう順番で出てくるかということになると、全体がひとつの文化構造、日本の文化が2時間ぐらいの中に凝縮されている。そういうシーンの中に浸って楽しむ、ということができますね。
 さっき渡辺さんが言ったように、これはこれ、あれはあれって読み解くようなことの、ある種の経験知がないと、つまらないと思う。僕が初めて金田中さんへ行って、芸者さんが来て「今日、巨人軍が勝ったわね」みたいな話をして終わったら、楽しみ方は10%もないような気がするんですよ。

渡辺:例えば着物や器、踊りについて興味があれば、どんどん飛躍的に面白さが増えていくじゃないですか。知識があればあるほど、お座敷って楽しくなると思うんですね。やっぱり何かを自分の中に入れていったほうが楽しいと思うんです。

岡副:でも、そんなに気張らないで。
 今、料亭という場所を使って、落語を聞いて食事をするとか、人間国宝の話を聞いて何かをするとか、陶芸家に来てもらって、その器を使って食事をするとか。そういうようなテーマを持って料亭を使うことも結構あります。そういう材料をこちら側から提示するというようなことは、最近増えていますね。

渡辺:あれだけ「和」が集中的に演出されている空間って、他にはないですよね。扉をくぐった瞬間から「和」のテーマパーク。
 銀座の街は今や、洋が主になっている。あれだけ「和」で完全に出来上がっている空間は楽しいですよね。そういうのがもう残されてないから。

山本:例えば、ディズニーランドに行くとき、僕たちが気付かないだけで子どもたちはものすごく学習している。

岡副:どういうアトラクションがあるとか、どんなキャラクターがどこにいるとか。びっくりするくらいですよね。

山本:人間って遊ぶときに知識を学習してから行くっていうのは、子どものころから持っている。ところが意外と大人になると、遊ぶことに関して学習することを忘れてしまうんじゃないかと思うんです。

渡辺:お茶会や俳句の会を金田中さんでやるという人は、学習とあいまって、どんどん楽しいものになっているでしょうね。

山本:先日、お茶のお稽古の合間、先生に「あの掛軸の表具は」といった話をしたんですが、お茶習いに来てる人でも5割は興味ない。お茶をたてる、お茶を一服いただく、そのことだけに興味があって、それほど道具に興味がある人が少ない。

渡辺:知識がつながっていくと楽しいのに残念ですよね。
 例えば、釜山に日本側から発注してつくった茶碗があって、萬年堂の御目出糖が実はもともと韓国のお菓子だとか、そういう話を聞いてる中にあの茶碗が出てくると、いろいろつながっていって面白い。銀座の街全体で、そういうつながりがいっぱい出てくるとものすごい面白くなると思います。

山本:金田中さんのような空間に、僕は美術商だからまず美術を持って行く。それから銀座の中にだって古美術商がたくさんいるから、お茶をたてるとすれば茶道具を持って行く。そうするとある意味で、知性のディズニーランドのような面白い遊び場に変じる。

岡副:そうですね。これからはそのような空間にしていけたらいいですね。

渡辺:今すごく不思議だったのが、山本さんが「僕は美術商だから」っておっしゃいましたが。もちろん美術商なんですけど、美術商として見たことがなかったんですよ。

山本:ひどい言い方(笑)。

渡辺:毎日会っているから、マヒしちゃってるんですよ。でも、よくよく考えてみれば美術商でプロの職業、プロフェッションを持ってる人なんですよね。銀座の人たちを友人や仲間として見ているから忘れてしまっているけれど、それぞれが個別の専門性を持って、それを背負ってやってる人たちがいて、そういう専門家が集まって話をするということ自体が楽しいですよね。パリにカフェがあって、そこに芸術家が集まって、何かまた新しいクリエイションが生まれた。もしかしたら、お座敷というのは日本でその機能をしてきたのかもしれないですね。

岡副:カフェとかサロンみたいに。

渡辺:お座敷にはそういう可能性があると、このお話の中で強く感じました。何かその仕事を背負ってる専門家が行くと、異業種間でとてもいい火花が散って面白いと思います。

山本:イベントの日っていうのを作ると楽しそうですね。
 僕のまわりにはデザイナー、映画関係者、編集者など近代の仕事の人が多く、そういう連中はもう遊ぶネタがない。今まで料亭とかそういう文化と離れている人たちが、遊ぶものがなくなってしまった。

岡副:うちは今、土日にはそういうイベント的なことをやっているんです。婚礼もやっていますが。先日は、ギターで芸者衆が踊るみたいなことも1日2回公演でやりました。だから引き出しをたくさんお持ちの方と一緒に何かできたら楽しそうですね。

岡副 徳子 新橋金田中若女将 岡副 徳子

新橋に大正時代に創業した「金田中」の若女将。
「金田中」のお座敷を切り盛りするほかに「金田中 庵」「数奇屋 金田中」「金田中 草」などの店舗を持つ。

山本:銀座に来るお客様に楽しんでもらうということをやったら、とても新しい。例えば洋と和の組み合わせだとか、中国の人が銀座にこれだけ来てるんだから、そういう文化も入ってきたり。それは面白いと思うな。

渡辺:毎回オーダーメイドの宴会ですから、面白い反面、芸者さんは大変ですよね。
 帯ひとつが「実はそういうテーマとつながってたんだ」といったような謎掛けがあると、がぜん面白いですよね。

山本:今、あるアーティストの絵を絵本にしようかなと考えていて、なにかおもしろいストーリーの元ネタがないかと、この夏休み落語をいろいろと聞いていて、江戸時代の「八っつぁん、熊さん」って日常生活を主題にした落語があるんです、それをうまくアレンジして今のサラリーマン生活に置き換えて絵本つくったら面白いかなと思っています。
 落語とか芸子さんが踊ってらっしゃる中にも多分、今の僕たちの時代を風刺するような演目ってたくさんあるような気がする。それをうまくアレンジすれば面白いかもしれない。

趣ある構えの金田中の正面玄関 「趣ある構えの金田中の正面玄関」
この門をくぐればお客さまを魅了する
金田中の世界が始まります。
横山大観作富士山の壮大な襖絵
(新橋金田中舞台)
横山大観作富士山の壮大な襖絵

遊びや文化を通した銀座の国際化

渡辺:金田中さんに、外国のお客様はいらっしゃいますか。

岡副:外国のお客様は、少ないですね。外国の方だけでいらっしゃるということはほとんどなくて、日本の方が仕事の接待的な感じでというのが多いです。

山本:日本に住んでいる外国人で日本文化を好きな人でも、金田中さんのような世界を見たことがない人も多いと思うんです。そういった方々を呼んで会を開くのも面白いかもしれない。

渡辺:国際化って一緒に遊ぶようになると、ぐっと進むと思うんです。今の「銀座を国際化しよう」というのは、とにかく外国人に何か買ってもらおうという話ばかりだから、「一緒に遊ぼう、一緒に楽しもう」という気持ちがもう少し出てこないと、ただ売りつけられるだけじゃ、外国から来たっておもしろくないと思うんです。

山本:表通りを観光で歩いてる限り、外国と変わらないかもしれない。

渡辺:昔、本田宗一郎さんが、「国際化とは人まねをしないことだ」と、書いたんです。オリジナルなものをきちっと出していけて、なおかつそのクオリティーが高いというのが、国際化の第一歩だと思うんです。特に金田中さんのような空間というのは本当に極めてオリジナルで、他国にはないですものね。

岡副:よその国にはないでしょうね。上海万博に出してる料亭は、芸者さんはいないですけど、予約でずっといっぱいなんですって。だから関心の度合いというのは、すごく高いんですよね。

渡辺:旅行者としては、その土地に根ざしたものが一番うれしいわけじゃないですか。私がガッカリしたのは、ベルリンに行った時「今日は特別な部屋を用意しました。スイートです」って言われて、喜んで入ってみたら、忍者屋敷みたいな和室のスイート。わざわざベルリンでこんな部屋に泊まりたくないのに(笑)。

山本:似たような話で、以前フランス人のお客様が、「オレは漆大好きだ。蒔絵のものを買ったんだ。自分の家に飾ってあるんだ」って言うから、うちの父が写真を見せてもらったら「これ、腰巻入れるのだから、片づけたほうがいいよ」って。

岡副:間違えちゃったんですね。
 日本人も外国のものでそういう間違ったことしてたりするかもしれませんね。

山本:21世紀の銀座というのは、外国人に来ていただかねければならない。外国の人に銀座に来ていただいて、「ああ、銀座は面白いね」とか「銀座に来るのが楽しいね」というような空間づくりとか、もてなしというのかな。そういうものをどうやってつくりあげるかというのが、大切なんだと思う。我々にとっては、大人のディズニーランドを銀座でどう演出するか。
 ディズニーランドの入場者数は創業以来2億人を超えたわけでしょ。ということは全人口が1億2000万人だから、国民全員が約2回行ってるんですよ。一種の巡礼になっている。

渡辺:「銀座参り」ですね。

山本:そう。だから銀座にファンタジアをつくる。

岡副:いいですね、銀座参り。

渡辺:アジアからもどんどん銀座に遊びにきてもらえればいいですね。

岡副:今はお買い物のお客様ばかりですけど、現にアジアの方がとても多いですものね。

渡辺:残念なのは、今のところ我々はモノしか提供できていない。だからこれからはそうじゃないもの、文化を提供していきたいですね。

山本:銀座はやっぱり世界中になじみを作るような構造をつくったほうがいいかもしれない。

渡辺:我々にとってみればお得意さま。お客様にしてみれば、なじみの店。あの店に行くとなんだか自分が得意になれると感じて頂けるように。

山本:パリにはあるシーズン、なじみのある人が世界中から来てるでしょ。観光でサッとくる人もいるけど、パリになじみがあって友だちがいて、人間関係があってひと夏行ってみよう、正月に行ってみようみたいな。そういうのが銀座にもできるといいよね。

渡辺:それには、やっぱり楽しくないと。遊びのない所に行っても面白くないですよ。モノだけ買いに来てたら、いつかは飽きちゃいますよね。
 うちも昔からのおなじみのお客様は、店にいらっしゃって荷物を置いて、「ちょっと銀座を回ってくるから、荷物見といて」というような方がいらっしゃるんですけど、そういった「なじみ」のお客様を外国の方や新しい方にも広げていかなければと思います。

山本:それはやっぱりさっき言ったように、昔のほうが場所を遊ぶという感じが強かったけども、モノを買うというふうになってしまった。

渡辺:経済の構造自体が商品に集中してしまって、モノを介さずに遊ぶということができなくなくなってしまったんですかね。

岡副:今はゲームもあればオモチャもたくさんあるけど、私が子どもの頃は、特に田舎だったので何もなかったんです。そうすると外で、どうやったら泥ダンゴが固くなるかとか、縁の下に埋めてちょっと仕込んでおいたりとか、そういう遊びをしましたよね。自分たちでいろいろと工夫していました。

山本:アサガオで色水つくったりとかね。

渡辺:今、遊びに対する工夫をちゃんとしておかないと、ますますTVゲームのような装置がないと遊べなくなってしまう。

個人の趣味性が文化を広げる

岡副:私、現代アートってあまり接したことがないので、今度伺わせて頂いてもよろしいですか。

山本:1人だと不安だろうから、渡辺さんと一緒に来てもいいし。

岡副:そんなに怖い所なんですか?

渡辺:魔界なんですよ(笑)。
 現代美術の面白さって、つくってる作家さんと話ができるんです。それが面白い。次はこうしたいんだとか、ああしたいんだとか、作家さんが言うじゃないですか、それを聞ける。同時に体験できるって、ものすごく面白い。

岡副:それは、本当にすごいことですね。

山本:現代美術も含めて、これからは趣味性の時代だと思う。これだけ遊びが増えて、いろいろなものにお金を使ってるわけだから、もうちょっと趣味性のあることで、お互いの趣味の感覚が合う人たちが集まるような場所ができるように情報の発信の仕方をしないといけないですね。多分これから趣味性というのはすごく大きな題材になると思うんです。
 趣味性というのは民族を越え、言語を越えるような気がする。同じような趣味性を持った人は外国人でもいると思うんですよ。だから僕は、これからは同じような趣味性の人たちが集まって、世界中の趣味性のある所に集まっていく時代がくると思う。そういう時代に銀座が対応できるような街にならないといけない。

岡副:これから銀座がますます、みんなが来たくなるような街になっていけたら嬉しいですね。

山本:今、渡辺さんのおかげで銀座の若い人たちがお茶に興味を持ってくださって、そこでお茶のお稽古をして趣味性が生まれると、今度は道具を見たり、そして金田中さんで遊ぶときにそういった日本の文化に興味持って入ってくれると、裾野が広がるかもしれませんね。

岡副:そうですね。

渡辺:僕は昔、日本にはどうしてイブニングドレスを着るパーティーがないんだろうかって嘆いたことがあるんですけど、大寄せの茶会に行って「あ、これだ」と思ったんです。美術的にもとてもセンスの高いものを、これだけの人が着てるんだと。日本のハイカルチャーってきっとこれなんだろうなと思いました。

山本:そういう会をやりたいですね。

渡辺:今まで雑誌でしか、うかがい知ることのできなかったものを体験できると、これはもうファンタジアですよ。かつて貴族がそこに思いをはせたものを追体験しましょうと。そういうものを、どうやって銀座の中に持ち込むか。

山本:一番大切なのは、遊び方だと思います。金田中さんがどういう遊び場なのかということの知識がないと遊びに行けませんから。
 画廊に入りにくいのと同じです。みなさんは「画廊は入りにくい」って言いますが、それは画廊をどういうふうに遊ぶかということを知らないから。でも、中学生の時から東京画廊に来て現代美術を見ている人もいたんですよ。中学生でかわいいから、私の父も声かけて「おお、また来たか。お菓子でも食ってくか」とか言って。

壹番館洋服店 渡辺 新 壹番館洋服店 渡辺 新
 その人は今、豊田市美術館の学芸主任になりました。そういう画廊の楽しみ方もあると思うんですね。だから金田中さんの楽しみ方を教えてあげると、入りやすくなるかもしれない。

渡辺:芸者さんが入らなくても楽しいという宴会もないと、バリエーションが出てこないですね。そうするとお座敷の場は、無限に楽しさが広がってきますよね。

岡副:ええ、面白そうです(笑)。

渡辺:兎にも角にも、銀座に文化や芸術をより一層根付かせて、銀座の街をもっともっと楽しんで頂ける様にしたいし、していかなければならないですね。
 お二人とも本日はお忙しい中、貴重なお話を聴かせていただきありがとうございました。

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