銀座人インタビュー<第4弾>
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第4弾〉国際都市、下町、銀座が見せるふたつの顔
銀座やす幸 石原 壽会長

教科書としての銀座

渡辺:この10年くらいで、銀座自体も変わったと思うんですけれども、銀座にいらっしゃるお客様は相当変わりましたか。

石原:それはきっと一部ですね。 昼のお客様は、外国からの観光客とくに今は中国の方、それから女性が多い。だけど、夕方ぐらいから、タクシーやハイヤー、または自分の車で来る方とか、やはり会社の方が多いと思います。

渡辺:なるほど。

石原:変な話だけど、会社のある程度の地位にいる人たちが、昼間に銀座で買い物をする時間は少ないと思うんですよね。銀座というところは、昼のショッピングとランチ、夕方の食事、夜のクラブやバー、そういうものが一体となって生きている場所だと思うんです。だからお客様は、基本的にはそういうふうに時間に合わせて変わっています。

渡辺:たしかに外国方の観光がとても多くなっていますが、コアな層は変わらずと言うことですね。

石原:バブルの頃のように一晩に、それこそ50万も100万も使われる人もいまだにいるんです。いつも思うのはそういう人たち、会社なら部長だとかが新入社員とかを連れて銀座に遊びに来たら良い教育ができると思うんです。

渡辺:そうですね。

石原:私が財布を買いに行って、番頭さんに一つの勉強をさせていただいたように、こういうところへ来ていろいろな姿を見て覚えていく人生経験というかな、あると思うんです。

渡辺:教科書にはない社会勉強ですね、先輩や上司の姿を見て学ぶ。

石原:そうそう。うちなんかの商売でいくと、比較的若い方は個室やテーブルを好まれるんです。というのは、カウンターに座ってご注文なさる術がよく分からないのではないかと思うんです。

渡辺:呼吸がよく分からないんですか。

石原:昔は、上役だとかが連れてきて、自然体でそれを覚えていったわけですがね。

渡辺:なるほど。そうやって遊び方や接待の仕方を学んでいく。経験を積むんですね。
 そして、自分がだんだん慣れてくると、また後輩や部下を連れていらっしゃる。

石原:そう、これも人との繋がりなんです。私はね、寿司、天ぷら、焼き鳥、おでん、全部カウンターで召し上がった方が美味いと思うんです。

渡辺:会話もあり、それがある意味で薬味になる(笑)。
 カウンターの中からご覧になっていて、「あ、こういう方いいな」と思うお客様って、いらっしゃいますか。

石原:お客様というのは面白いもので、店には自然と同じようなタイプのお客様が集まっていらっしゃいます。
 うちへ来るお客様が居酒屋へ行っても落ち着かないと思うし、居酒屋で一杯やっている人たちがうちの店へ来たら、やっぱり居心地が悪いのかと思います。

渡辺:なるほど。やはりそれぞれ水が合うと言いますか、自分に合ったお店があるんですね。

石原:素敵だなと思うお客様は何というか、やっぱり洗練されていますね。
 注文の仕方でも飲み方でも、話していることでもね。阿吽の呼吸というか、帰り方も格好いいです。

渡辺:良い意味で遊び慣れた方が、まだまだいらっしゃるんですね。

石原:若い人にもどんどんそうなってもらいたいですよね。今は年配の方が多いですから。

渡辺:そうですか。
 なかなか若い人でそういう方は少ないですか。

石原:まあ、今の人たちは気の毒だと思います。ひと昔前の人は会社の経費でそういった経験もできたのだろうけど、今はそうはいかない。ちょうど育ち盛りのお子さんを持っている人たちは、ちょっと厳しいんじゃないかなとも思います。

渡辺:そうですよね。

石原:プライベートでお金を払ってやるといったら、ガード下の焼き鳥になっちゃうんじゃないかな。もう少し景気が回復してくれればいいと思いますけどね。

渡辺:銀座の夜のお姉様方なんか、お客様と一緒にいらっしゃることはありますよね。

石原:はい。

渡辺:昔と比べて、変わっているものですか。

石原:あんまり変わっていないですね。

渡辺:やっぱり銀座らしさでしょうか。

石原:一流のクラブのホステスさんなんて、我々が行けないようなところへ行っていますよ。「冗談じゃないよ」と(笑)。
 今、60過ぎぐらいの人たちがスナックやカウンターのバーとかで結構頑張っているでしょう。団塊の世代だと思います。この人たちがいなくなってくると、銀座はそういう人たちで持っている部分もありますから。

渡辺:どうなんでしょう。ホステスさんで終わってしまう人と、そうやってお店を持てて、ママさんとしてやっていける人と、長いことその商売でやっていけるというのは、何が違うんでしょうか。

石原:やっぱり商売だから、好きじゃなきゃ駄目ですね。要するに、商売をやっているのが好きな人。それと、体力がないと続けられません。容姿でもない、頭でもない、体力ですよ。

渡辺:長く商売をされているママさんたちがいらっしゃらなくなってしまうと、街が変わってしまいますね。

石原:それは変わりますよ。昼のショッピングと夕方の食事、夜の高級クラブくらいは残るかもしれないけど、そうやって人と待ち合わせている時間、ちょっと寄れるような小さな店が銀座を支えていますからね。

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これからの老舗

渡辺:この銀座で長く商売を続けていくことの大切さや、どういうことを守っていくことによって、長く商売を続けていけるのでしょう。

石原:ご商売によって、またご主人の考え方で違うと思うけど、長くやるというのは、われわれの商売でいえば、常に変わらずですね。商売をやるとしたら、まず、常に変わらないものをきちっと出していく、ということじゃないですかね。やはりすべては商品ですよ。だから、商品に対する思い入れというか、自信、誇り、そういうものを自分自身で失わずに持っていなければいけないですね。確かに、この街で生きていくのは大変です。私は本当にそう思いますよ。
 これは三代目などになってくると、なおさら大変だと思います。「本物志向」というかな。自分でこうだと思ったものを曲げずにしっかりと売っていくしかないですね。その中で、流行というのがありますから、お客様の需要にも応えていかなければいけない。時の流れには絶対に勝てないわけですから。それをどううまく調和させていくか、これがやはり大事なんじゃないかと思いますね。

渡辺:いわゆる老舗といわれるお店があることによって、銀座の街がどんどん成長していっている部分もあるわけですか。

石原:我々が70何年、80年、戦後すぐに来たってもう65年です。そういう古い50年以上のお店があるということは、銀座にとっては大きいと思います。それで、新しい店とうまく共存できれば、一番いいんじゃないですか。高い建物もあれば、二階の建物もあれば、路地もあれば、横丁もあれば、表が華やかで裏もある。

渡辺:様々な顔を持っていることが、銀座の成長のポイントになっているかもしれませんね。

石原:今までも外からくるものに対しても「来てください。いいですよ」と、受け入れてきましたから。我々は、いつでも「一緒に、共に銀座を良くしましょうよ」という気持ちです。 だから、銀座の百貨店が中国語の案内を出すとか、これだって時の流れに合わせて必要なわけです。

渡辺:新しいものを受け入れつつ、自分たちの軸はぶれないように。

石原:うちだって、今までどおり売っていればいいというものじゃない。いつかはどこかで違うものを売らなきゃならないし、方向転換をしなきゃならない時があるかもしれない。
 だから、そこを見極めて、基本的なものだけは動かさないということですよね。うちの家業は何だといったら、おでんを売っているんだから、「おでんだけはきちんと売りなさいよ」ということです。これが、「どうしてもみんな肉食ばかりが増えてしまったから、どうします?」と言ったら、「いや、しょうがないから、ステーキでもちょっと置くか」ということもないとはいえない。あり得ないけどね(笑)。 でも、これから先は分からないですよ。それくらいの気持ちの柔軟性を持ってね、時の流れにはやっぱり逆らえないと。それでも基本は見失わずに、本業に徹していなきゃ駄目だよということです。

渡辺:そうですね。そうそう器用じゃないですもんね。あっちもこっちもできません(笑)。

石原:我々の「キギョウ」というのは、生業(いきぎょう)だから。生きる業ですからね。大きな会社さんは企てる業だから。

渡辺:生業(いきぎょう)、なりわいですね。

石原:そう。なりわい。だから、店の連中のなりわい、われわれの生活手段、これは変わらないわけですから。

渡辺:企てとはちょっと違いますよね(笑)。

石原:だから、どうしてものれんを守らなければと無理することはない。時の流れで、駄目ならやめなさいと、どこかで見切りを付けなさいと。

壹番館洋服店 渡辺 新 壹番館洋服店 渡辺 新
 うちの三代目にもそれは言ってあります。たとえばいろいろなところに不義理してまで、無理してのれんを守るようなことをする必要はない。

渡辺:なるほど。

石原:そこにあまりプレッシャーを感じないように。あまりプレッシャーを掛けると、かえって駄目ですからね。
 最後にね、銀座という所はやっぱりいい所ですよ。だからしっかりと、この街を守っていきたいと思います。今も昔もこの街は落ち着きますよ。私にとって銀座は心のふる里です。

渡辺:本日は大変お忙しい中、様々なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
 私も先輩方の築いたものを汚さぬように、精進して参ります。

銀座いせよし
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