銀座人インタビュー<第8弾>
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第8弾〉その店の空気感を写真に
写真家 篠山紀信先生

常に第一線で

渡辺:先生は長く第一線でご活躍していらっしゃいますが。ずっと昔からそのポジションというのは、本当に大変なことだと思うんです。これだけ流れの速い業界の中でずっとそこにいられるというのは。

篠山:それは基本的に写真は僕が何か作り上げることじゃなくて、やっぱり相手、つまりもっと言うと時代が作った新しい人や、面白い物、面白い事、人・物・事ですね。そういうことをちゃんと見て、そこに対して自分が一番いいポジションで写真を撮れれば、一番いい写真が撮れるような気がするんですよ。だから写真なんていうのは時代の写し鏡と考えればいいと思いますよ。

渡辺:時代の写し鏡。

篠山:そう。時代はどんどん進んで行くわけですから。僕が並走できる時代というのは無限にあるわけではないので、その間はなるべく時代というものをちゃんと見ながら、人や物や事に対して積極的に関わりながら撮っていきたいなということはずっと思っているんです。

渡辺:なるほど。そういった考えをお持ちだから、大きいカメラからデジタルへと、どんどん機材が変わっていく中でも、とても柔軟に対応されていますよね。

篠山:そうですね。写真というのはまだ発明されて180年くらいしかたっていないんですよ。
 一番初めはフィルムの代わりに、甲板といって大きなガラス板があって三脚を付けていたのが、フィルムが発明されて小型のカメラになって、それからモノクロームがカラーになり、今度は自動焦点、自動露出が開発されてどんどん写真も変わっていったんです。だけどデジタルの登場というのは、本当に写真においてものすごく大きい出来事なの。大革命(笑)。

渡辺:先ほどお話にあった、撮ってすぐに見せられるということ以外にも、そんなにデジタルで変わったものなんですか。

篠山:だって今までの写真というのは化学、ケミカルだもの。デジタルはエレキだから(笑)。
 もう全然違うんですよ。今までは全部暗室の中。でもデジタルは明室ですから。明るいところでやるんですから(笑)。

渡辺:コンピュータで見られるんですものね。

篠山:それぐらい違うんですよ。化学的な要素でもってフィルムの粒子を感光させていたものが、デジタルは0と1の信号ですから。

渡辺:撮っていても違うものですか。

篠山:それも違うんですよね。なるべく似たように似たようにと、メーカーもいろいろ開発してますけど、もう根本的に違うわけ。だから今でもプロの写真家の中にはデジタルなんていうのは嘘で、フィルムしか使わないという人もいますけど、フィルムも印画紙もメーカーが生産を減らしているから、撮るための材料も少なくなってきているんです。
 また、デジタルで一番変わったというのは携帯電話カメラの登場でしょうね。

渡辺:ああ、なるほど。今みんな携帯で写真を撮りますものね。レストランに行っても食べる前に必ず撮る(笑)。カメラのファーストチョイスが携帯電話になったことで、撮るという行為は爆発的に増えたんですね。

篠山:そうそう。だから写真を撮るという行為において、こんなに発展している時期はないんですよ。

渡辺:先生がよくおっしゃっているのは、特に女性の写真家が増えたと。違いますか、やっぱり。

篠山:それは違いますね。やっぱり感覚的に違いますし、女性特有なものというのはありますね。昔は重い機材、高い機材、そういうものをちゃんと持てる人は男で、しかも金持ちじゃなくちゃできなかったみたいなところがあるわけですよ。

渡辺:すごい金額ですよね。

篠山:でも今のデジカメも半年に1回新しい新型が出るので(笑)、これもコンピューターから何から集めていたら結構お金かかるんですけど、ただもうミラーレスの簡単なカメラや写メなんかを含めればどんどん若い人、女性でも撮ってますからね。だからガラッと変わった感じはありますね。

竹沢えり子さんと東京画廊シスターズ
竹沢えり子さん(右)と
東京画廊シスターズ〈東京画廊山本豊津様の奥様きむ子さん(中)と、その妹の初みき子さん(左)〉

撮り続ける歌舞伎

渡辺:今まで「あっ、変わったな」と一番記憶にある時代の変わり目は何ですか。

篠山:僕が銀座にいた頃はみゆき族とか(笑)。そんな時代でしょ。それからVANとか、ああいうものがあって、ちょうど「平凡パンチ」なんかが出始めたころですね。

渡辺:先生は少しずつ自分周りを変えていく時代の流れや、その変わり目を何で感じ取るんですか。

篠山:時代の流れを感じるのは絶対的に東京に住んでいるということですね。それから新聞をよく読むことです(笑)。僕は新聞がすごく好きなんです。

渡辺:先生は現場にいらっしゃる時間がものすごく長いですよね。特に歌舞伎のときにはずっと現場にいて撮ってらっしゃる。

篠山:歌舞伎の1時間の芝居を5分でやめて帰るわけにいかないから(笑)。
 時代の流れということでは、400年続いている歌舞伎でも微妙な波はどの時代にもあると思うんですけど、やっぱりそれなりに新しい人を育てるというシステムができているわけですよね。

渡辺:なるほど。それで成功する人もいれば、外れてしまう人もいらっしゃる。名門の家では、男の子が生まれたら小さな頃から稽古を付けて大人になったらどういう名前になるかと、決まっているような方もいらっしゃる。

篠山:そうですね。中には途中でやめたり、また戻ってきたりする人もいるし。それから国立劇場には養成所もありますから、そこから入ってくる人もいます。だから組織的にうまく育てようとするシステムはあるんですよね。
 けれどもそれはやっぱり時代が違いますから、歌右衛門は二度と出ないとか、玉三郎は二度と出ないというのは当然なことで、それはやっぱり時代が生んでいるわけです。だから玉三郎と歌右衛門を比較するのもおかしい話だし、やっぱり木村伊兵衛さんの舞台の写真と、僕の舞台の写真を比較されるのもちょっと困るようなものがあるんですよ(笑)。

渡辺:そもそも時代が違うわけですね。
 でもそんな中で先日も玉三郎さんのお話が出て、先生がおっしゃっていた命がけで芝居に取り組んでらっしゃるというのは一体どういうことなんですか。他の方ももちろん一生懸命やっていらっしゃる。

篠山:いやあ、命がけでしょうねえ。玉三郎の場合は、僕は彼が20歳のころから40年以上ずっと撮っているわけですけど、彼の中にもいろいろな悩みがあったり、行き詰ったときがあったり、いろいろなことがあったと思います。要するに歌舞伎の女形として自分がちゃんとやっているんだということがぶれないですよね。歌舞伎に対して非常にストイックです。
 彼は潜りが趣味なんですが、不思議なことに歌舞伎役者だからか海の中での動きが本当に綺麗なんですよ。

渡辺:へえ。見てみたいですね。

篠山:やっぱり無駄な動きがあると動き的にも美しくないし、それから深く速く潜れないわけじゃないですか。そういう動きが完璧ですからね。

創作との対峙

渡辺:先生のお仕事も、拝見していると無駄がありませんが、やはり若いうちは(笑)。

篠山:そうですよ(笑)。
 初めは全てわかるわけじゃないので、いろいろな試行錯誤や失敗ばかり。でもそれを恐れないことですね。僕も今だに失敗しますよ。でもそういうことを恐れちゃいけないし、もっと言うとその失敗や多少自分が不安だなということを持ちながら、ものを創ったり演じたほうがいいと思うんですよ。

渡辺:その心配を抱えながらですか。

篠山:もう自分で「これだったら全然大丈夫だよ。さあ見ろよ」というような芝居は、クサくてクサくて見ていられない。見ている方もイヤですよ。

渡辺:感じるものですか。

篠山:感じますね。どこかで不安げで「大丈夫かしら」という気持ちがどこかにありながら進むというのが、見ているほうもスリリングなんですよ。
 写真も同じです。こうやれば絶対安全圏でバッチリ撮れるんだ、というのをその通り撮っても全然面白くない。

渡辺:不安を抱きながら仕事に臨むというのは、悪いことではないと。

篠山:それはとてもいいこと。どんな仕事をやる人でも、全員そうでないとダメですよ。

渡辺:ちょっとネガティブに感じていたんですけど、それでいいんですね。

篠山:それがいいんですよ。それで新しいものを掴む、掴んだらまたそれをあえて壊しながら、それを飛び越えて、というやり方で進まないと新しいものは生まれない。僕が長続きするのは、そういうことを恐れないからでしょうね。

渡辺:ある種の不安感を持つというのは、逆に健全なことなんですね。

篠山:健全なことです。それからやっぱり自分が創り上げてきたものを、自分でなぞってしまうのね。同じことを繰り返していけば楽ですからね。でもそれはダメです。

渡辺:定型の勝ちパターン。

篠山:それをまた壊していく。乗り越えていく。そういう気持ちでいるのがいいんじゃないですかね。

壹番館洋服店  渡辺 新 壹番館洋服店 渡辺 新

渡辺:それは自分で壊せるものなんですか。それとも何か新しいご注文によって、その巡り合いの中やもしくはその中での人との出会いとか。

篠山:同じ注文が来てもあえて壊したりね(笑)。「こんなもんつまんないからこうやろうよ」というようなこととかね。

渡辺:それは純粋な興味ですか。何か探って進んで行きたいという。

篠山:まあそうですね。人はそれを才能とも言うんですけど(笑)。

渡辺:(笑)素晴らしい。そうですか。
 本日はお忙しい中、本当にいいお話をありがとうございました。今後ともよろしくお願い申し上げます。


写真集「GINZA しあわせ」SHINOYAMA KISHIN(講談社)
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