銀座人インタビュー<第9弾>
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第9弾〉草木の命を織る
染織作家 人間国宝 志村ふくみ先生 × 染織作家 志村洋子先生 × 株式会社オフィスイーヨー 梁 順喜様

自然との対話

渡辺:昔は手に入っていたのに、今は手に入らなくなってしまった草や木はあるんですか。

洋子:ありますよ。草木もありますけれど。

ふくみ:それもあるけれど、また何か発見もありますよ。

渡辺:出てくるんですか。

ふくみ:ありますよ。それはこちら側の心。

洋子:わたしたちの仕事は地球と運命共同体でしょう、やはり感じますよね。本当に色々なことがあった。
 うちの弟子たちの集まりがあったときに誰かが言ったんです。関東から北にいる子たちは、染料を取るのにも草木が採れないと。しばらくは京都から送ってあげなければならない。本当に地球が病むと私たちも仕事ができなくなってしまう。

ふくみ:それはそうよね。特に自然のものを扱っていればね。
 そういうときにどうしたらいいかですよね。本当にこれは深刻ですね。

渡辺:要はこういう不規則性の話ですが、織りや染めの不規則性もそうですし、今年のように震災が起きたことで、去年まで採れていたものがいきなり採れなくなる。やはりそういう不規則であることが実は世の中の常なんですが、我々は常に均一であると錯覚していますよね。

ふくみ:そう。全部満たされていることが当り前になってしまっていますものね。

洋子:これからだんだん変化しつつ、その変化に伴った織物というのが本当の姿かもしれませんね。大氷河期の織物とかね(笑)。私たちの作品も地球の天候によって変わりますと。

:今は世界中がそういう時期ですよね。東北の大震災、タイの洪水・・・。

洋子:そういう時代の中で自分なりの感覚、危機感というものを表現する以外ないですね。色が無くなったら無くなったなりの織り方ですね。

:とうとう白になりました。

洋子:何も植物が無くなりました、「もう生成りのままです」というのも染織史の中のひとつかもしれないですね。

ふくみ:「色がなくなりました時代」。

渡辺:時代の表現ですね。面白い。

洋子:でも、そういう時代にも木綿は最後まで頑張ると思います。

渡辺:木綿ですか。

洋子:綿花は強い、それでいて成長が早いんです。今、東北でも頑張って咲いています。

ふくみ:地面に含まれた塩をどんどん吸い上げてくれるってね。

洋子:それとカイコも強いと聞きました。秋田の方の野蚕のカイコが一番いいんですって。オゾン層が破壊されて紫外線が入ってくるでしょ、それに対して一番強いのが野蚕の絹なんですって。木綿、絹、いずれも繊維なんですね。これからの地球を守るのは私たちの仕事なんです。
 要するに繊維を纏うということなんですね。先日ドイツに視察に行ってきた建築家の方と散々そんな話しをしていたんですけれど、ドイツや北欧で新しい繊維の開発をやっているらしいです。

渡辺:繊維を纏って地球の環境に対応しようと。

洋子:そういうものは、これからとても大きな産業になると思います。木綿と絹の混紡みたいなものもあるかなと思うんですけどね。

株式会社オフィスイーヨー 梁 順喜(ヤン スニ)
株式会社オフィスイーヨー
梁 順喜(ヤン スニ)

渡辺:麻はどうなんでしょう。

ふくみ:麻もいいんじゃないですか。

渡辺:京都周辺は麻は採れないんですか。やはり北海道や北の方ですか。

ふくみ:新潟とか、あちらの方ですよね。苧麻とかが採れるようですね。

渡辺:これからは天然繊維。ウール、絹、綿。また天然繊維を纏う時代になったのかもしれないですね。天然素材を纏うことで化学の猛威から身を守ることができる。

ふくみ:きっと大きく変わりますよ。

渡辺:それぐらい。価値観が変わっていくわけですからね。
 何かすごく暗示的でどう読み解くかですね。

流れゆく時代

京都にて 京都にてふくみ先生、洋子先生とご一緒させていただいたときの一コマ。
織機の心地よい音が今でもよみがえります。

渡辺:今の近代的な仕組みというのは延々と加速こそすれ、立ち止まることは難しいですよね。

ふくみ:ピューッと世界中に波及しますね。

渡辺:でも人間はそういうわけにいかないですし、さっきおっしゃっていたように、絣の中でちょっと立ち止まってみたり、味を感じてみたり。

ふくみ:そうですね。立ち止まったり、ウロウロしたりしているんですけど、そういう情報だけがバーッと世界中にね。それは怖いわね。

洋子:案外立ち止まれないと思っていても、強制的にでもそういう時期が来るかもしれないですからね。

ふくみ:今朝ホテルでパッとカーテンを開けたら、何か宇宙の別の世界に来たと思いましたね。ビルがワーッとあって、人っ子一人いなくてね。何とも言えない無機質な世界だなと思ったんです。

渡辺:無機質な感じがしましたか?

ふくみ:ゾッとするほど無機質な感じ。朝7時に窓の外を見たら人も車も何も通ってないのよね。「あれー」と思って。

渡辺:以前読んだ本にアメリカの西洋医学の先生が、西洋医学だけでは解決できないことがあるので東洋医学を学ぶというものがあったのですが、そこで経絡というものを見つけるんです。実は人間の身体というのは単なる物質で、必ず自分の魂から指令が来ていてその指令を受けとめるアンテナだと。そのアンテナが狂ってしまうと体がうまく動かない、といったことが書いてありました。
 よく作家や画家の方々が「書(描)こうとしていないけれど、自然と降りて来た」といったことをおっしゃいますが、先生方も織られたり染めたりされていて、そういう時はあるんですか。

ふくみ:そんな大層なことはないんですけれど。糸があるでしょう、それを手が自然にヒュッと掴むことがある。考えて次はこれを何本入れたんだとか、そんな感じは全くなくて、スーッと入っていくんですよね。その時は自分でも意識しないでスーッと、それであっという間に一尺くらい織る。そういう時の作品は後から見るととても良い作品なんですよ、「あらどうしてこんな作品ができたのかしら」と思う(笑)。ですからある種、「降りてくる時」はあると思います。しょっちゅうではないですけれど(笑)。自分がどういう状態になっているのかはわかりませんが。

渡辺:迷いなく手が動いていくんですね。
 棋士の羽生さんの話で、将棋はある程度長く考えられますが、長考している時に打った手はあまり良くないとおっしゃるんです。ダメな手しか打っていないと(笑)。そのかわり、パンパンと感覚で打っている時の方がいい手を打っていると。

洋子:そういう感覚って大事なのよね。その西洋医学の先生のお話はバイブレーションが来ると。

渡辺:肉体としての身体だけで考えたら無理があるのではないかというお話で、もう少しまわりに感覚的なものがあったり、また、遺伝というものが実際にあるわけだから、過去からの流れ・つながりも意識していく必要があると。

ふくみ:そうですよね。もう少し深くて因縁や自分たちのカルマとか、そういうことかもしれませんね。

渡辺:その肉体から離れて、自分自身で指令をしているのかもしれないですし、言ってみれば日本でいう古来からの魂という話だと思うんですけれど、その状態が安定しているのが本当の健康なのではないか、といったことがその本には書いてありました。

洋子:とある先生から聞いた話なのですが、首がもう動けないほど痛くてどうしようもない方がいらして、色々なお医者様に行ったけれど原因がわからなかったのが、その先生は診てすぐにわかったんですって。それで首ではなく全然違うところを治療したらパッ首がと治ったんですって。ですから、首が痛いからといって首ではないんですって。今、渡辺さんがおっしゃったようなことがあるのね。

壹番館洋服店  渡辺 新 壹番館洋服店 渡辺 新

ふくみ:あとは、妊婦さんで赤ちゃんが逆子で、もうどうしようもなく苦しんでいる人がいらしたんですって。他のお医者様たちはもう何とかしようとしたけれど治らなかった。でもその先生が妊婦さんの足の先に何かちょっとやったらコロッと逆子が治った。
 きっと人間の身体には何か通じているのね。それがつながり、継承として現れていくのかもしれませんね。私たちも着物とお洋服で、それを表現していけたらいいですね。

渡辺:本当にそうですね。まだまだ勉強することが沢山ありそうです。
 本日はお忙しい中、ありがとうございました。今後ともご教授の程よろしくお願い申し上げます。

随筆家としても著名なふくみ先生。
数々の本を執筆されていらっしゃいます。
しむらのいろ