渡辺:先代はおうちでお仕事の話などされていましたか。
小寺:昔ですから、ふすま、板戸一枚の奥で仕事の話はしませんでした。
ただそういう環境ですから、聞こえてはきましたけれども、積極的にはしませんでしたね。
渡辺:お店の上に住んでいらしたわけですよね。職場と住居が一緒というのはどういうものですか。
小寺:結婚するときに父が、長男なのだから一緒に住むのは当たり前だと。お客様に何かがあった時にはすぐ駆けつけられるように、職住一緒でないと駄目だと言われたのです。
渡辺:それはお客様に何かあった時のために。
小寺:すぐ駆けつけて何か役に立つようにということです。
渡辺:だから住んでいないといけないということですね。
小寺:それがいまだにつながって住んでいます。
渡辺:銀座に住まれていかがですか。何年ぐらいになりますか。
小寺:もう50年以上になります。
渡辺:住み心地はいかがですか。
小寺:このごろテレビでも色々な地方を紹介しますが、例えば社長の家のほうの赤堤などは物価が安いのであちらに行ったらずいぶん生活が楽かと思います。銀座にいるとどうしてもデパートで買いますので。
渡辺:児玉さん、今から銀座住まいはいかがですか。
児玉:最近また銀座住まいがにわかに注目されていますね。固定資産税も下がりますし、そういう意味でいろいろインセンティブがありますよね。
渡辺:このあたりはわりと住んでおられる方、いらっしゃいますね。
渡辺:ファンドバブルを経て、今後の銀座の不動産バブルはいかがでしょうか。
児玉:その波の高さは違いますが、だいたい10年タームで波があるような気がします。90年ぐらいにバブルが終わって、その後どっと下がりました。 そして二千何年かにITバブルといって、IT系の方が頑張って急に景気のいい話になった時に、少し上がりました。しかしまた10年目ではじけて、それから先ほどの外資系のファンドバブルというのがありました。これが2006、2007、2008年と続きまして、その後はいつかといいますと、またタームとしては10年ぐらいかかるのでしょうね。ただ、昔のバブルのようなことは起こらないでしょうけれども、見ていますと必ずそういう波はあります。
渡辺:お話を伺っていて不思議だと思ったのは、不動産関係のバブルで銀座は意外と影響を受けていないようですね。
児玉:そうです、そうでもないのです。中には特に銀座でやる必要がないという方もいらっしゃったのでしょうが、ほとんど移動はなかったのではないかという気がします。皆さんもともと、この通りで木造のおうちで二代、三代とご商売をされて上に住んでいたのでしょう。
平松:やはり小寺商店さんは、銀座を中心に今後もご商売をされていかれる方針ですか。
児玉:そうですね。
平松:お付き合いしていて思いますけれども、なかなか不動産会社の方で児玉さんのように細かいことができる方はいません。情報に詳くていらっしゃいます。
児玉:結局蓄積だと思います。私にしましても先代から教わったり、色々な意味でお客様もそうですし、日々変わっていくわけですけれども、先ほど申しあげたとおり、銀座のベースは変わりません。新しい方は来ますけれども、ただそこでまた自然浄化が起きていきます。
小寺:この共存・共栄というのはいつでもつながっているのです。
渡辺:共にあるわけですね。
銀座に色々と土地を持っていらっしゃる方もいますけれども、ご覧になっていて長い間土地を持っていらっしゃる方の特徴といいますか「なるほど、だから続く」と感じる何かはありますか。
児玉:いわゆる地主さんといいますのは、日本の税制がある以上は三代続けば全部持っていかれることになりますから、存続していくのは難しいです。昔はよく銀座の四大地主さまなどと言われたこともあったらしいですし、その流れの方もいらっしゃいますけれども、ほとんど細かくなっていますし、いわゆる普通の地主業の方には厳しくなると思います。
やはりあとはご商売でどこまで残れるかという話になってくるわけですが、長く持っていらっしゃる方は、基本的にそこで商売をなさっている方だと思います。
渡辺:不動産所有と商いがセットになっているということですね。
児玉:そうです。例えば貸しビル業だという方もいらっしゃいますけれども、これはまたいろいろあります。バーやクラブに特化して持っていらっしゃる方もいますが、ソーシャル系はまた独特でありまして、荒波があるとそちらに飲み込まれていってしまうということもあります。
渡辺:そちらのほうが波が激しい業種ですよね。
児玉:普通の貸しビル業としてお持ちの方もいらっしゃいますけれども、純粋貸しビル業だけではなく、ご自分の生業をなさっていらっしゃる方が多いと思います。銀座という土地でみますと、最近よく中国人が来て土地を買うという話もあり、銀座はどうかと聞かれますが、実はそれほど買ってないのです。
例えば30坪で1億という価格でも湾岸地域のマンションを買いますが、それはホテル代わりに、なおかつ、将来的にも価格的にも売りやすいだろうという思惑があるので買っているわけです。ところが、不動産から見た場合、銀座の土地は資産価値はあるのですが収益性が低いわけです。つまり、よくいうことですが、銀座の中央通りだとか晴海通りも含めて、すぐに1坪1億円となり、バブルのころは2億円になるわけです。
渡辺:ピークでいくらまでいったのですか。
児玉:私が知る範囲では、バブルのころは実際に動いてなさそうだったので、あまりそういう話は聞いていません。一番最近に公表された数字といいますのは、2007〜2008年で銀座に1坪1億8,000万の土地があったということです。
実際は他にもあったかもしれませんが、公に発表されたものとしてはこれが最高額ですね。しかし地価がそこまで上がっても、家賃が追いついているかといいますとそうでないですよね。いわゆる収益性が低いわけです。1階の家賃はファンドバブルの最盛期のときには1坪25万くらいになるわけです。悪くなって落ちた時は、それでもまだ1坪15万くらいですが、土地の動き方を見ますと、良い時には例えば2億5,000万だといっており、悪いときになると6,000万だとくるわけです。ブレが激しいのです。
そうしますと、いい時に2億5,000万であれば25万家賃をとったとしてもなかなか採算が合わないのです。そうすると投資家の方は、銀座はやはり収益目的では買えないとなるわけです。
平松:この話はなるほどと思います。
児玉:そういう意味で、銀座は事業収益性はないわけですが銀座という所はそれでいいのです。商売をする人がそこで初めて価値を見い出して買えばいいのだと思います。
渡辺:ただその分、固定資産税が。(笑)
児玉:そういうことです。身にしみる話になってしまいます。(笑)
渡辺:そこにギャップがあるわけですね。そこをやはり実業で稼ぎ出さなくてはならないのですね。
児玉:評価額が下がっても固定資産税は上がるなど、本当に変ですよね。
渡辺:貸してあまり儲かる土地ではないということですね。
児玉:事業性は低いですが、ただ、資産価値はあります。先ほど申しあげたように、銀座の土地というのはここだけしかないわけですから、持っていれば爆発力はあります。
中東の人はニューヨークやロンドンを買うようですが。極東だからなじみがないということもあると思いますが、それにしても多分収益性は低いと思います。例えばロンドンやニューヨークも家賃が高いといいますけれど、純粋にフラットでみた場合に2〜3パーセント台の収益物件を買うかというと、多分買わないでしょう。
渡辺:例えばヨーロッパのファッションストリートなど、実際はもっと東京よりも家賃は高いです。ただし、パリでも高いのはほんの何本かで、ニューヨークでも全部の通りがいいわけではなくて、5 th.とマジソンだという話になる。今、銀座は全てが高いわけです、それがもう少し収斂されてくれば、国際的な価格が出てくるのかもしれないですけれど、これだけ人が入ってきているとその価格にはなりようがないですよね。
児玉:一時、並木通りをミラノのモンテナポレオーネ通りに似ているといった話がありました。幅員がだいたい同じですぐ渡れるところがいいだとか、今でも脚光を浴びています。しかし結局、中央通りの方が箱が大きく集客力も大きいということでそちらに移ってきています。銀座はそういうチョイスができる街なんです。
渡辺:多様性があるのですね。
児玉:そう思います。ブランドのショップは並木通りにショップを残しつつも、中央通りでやっているわけです。それはお客様が違うということで、並木通りのほうがやはり実際に買って行くお客様が多いということをよく聞きます。
渡辺:では、中央通りのほうはむしろPR目的であると。
児玉:そのような側面もあるのでしょう。中国人はこちらで買うというところがあったりして、それぞれ役目が違うということは聞いております。
渡辺:夜の銀座はどうですか。
児玉:だいぶん人が戻りつつあるようですが、我々の商売から見ますとまだまだ空きがあります。バーやクラブが出た後がなかなか決まりませんね。
以前ですと銀座の一等地でしたら、造作があれば居抜きで権利売買しましたし、ママさん同士で家主さんとは関係なく動いていたわけですが、今はそういうことは絶対ありません。あっても造作の価値分だけです。力のある人がやはり少ないです。銀座の灯火を消してはいけないということで、頑張っていただきたい。
渡辺:最近、青山などにあるようなタイプの店が、飲食でも銀座に出ていらっしゃっていますよね。あれはいいことですね。
法人主体の銀座からお客様の顔が見えるような街に変わってきているのは、健全ですよね。
児玉:やはりお客様の層がそうなってきているわけです。例えば企業やお医者さんや弁護士さんもたくさんいらっしゃるわけですから、昔ながらの高級店で、入れば6〜7万する店もあるわけです。ところが中間的なお店がどんどん少なくなってしまいました。接待費で先輩や部長に引っ張られて行くような店がとても減ったわけです。
渡辺:高級クラブと居酒屋の間の店がなくなったわけですね。
児玉:会社の接待費で飲んでいたようなところですね。入って3万ぐらいする店が減っているわけです。
渡辺:銀座の土地は資産価値はあるけれども・・・。
児玉:収益性はそれほどではない。
平松:肝に銘じないといけません。
児玉:これを言ったら銀行さんに怒られます。(笑)
小寺:小寺商店は、こつこつと100年かかってやっと自社ビルができたのですから。
児玉:身の丈でやりなさいとずっと言われておりました。すいません、当社はいつまでたっても小寺でございます。「大寺」にならなくてごめんなさいというオチがあるわけです。(笑)
渡辺:おあとがよろしいようで。(笑)
小寺商店さんにそういうアドバイスをされて、とてもよかったというお話も聞きました。「無理しないで」と先代にアドバイスされて、あの話を聞いていて本当によかったと。
児玉:常にそうなのですが、一番底のところはどうなのかということを考えながらいつもお話をします。
渡辺:銀座で長年商売をするということは、地域に密着しているということで悪い時も想定してアドバイスしていかないといけないということですよね。
児玉:時々、「何だこんなもんか、他ではもっと高く言われたぞ」という方もいます。高値を言うのは簡単なのですが、下がるときも知っていますし、それが一番重荷になるわけですから。バブルのときは予測できなかったでしょうけれども、あのときの資産でお売りになった方がみんな相当ご苦労されているのを見ていますから。
渡辺:そういう顔の見える商売ができるというのも、また銀座の良いところですね。
児玉:縦横斜めということです。
小寺:つながりは本当に大切ですね。財産です。
渡辺:本日は素晴らしいお話を聞かせていただきありがとうございました。本当に勉強になりました。
今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。