渡辺:ナイルレストランさんには三代目として善己さんがいらっしゃいますが、おやじさんとして息子さんが継いでくれるのはどういう気持ちなんでしょう。
ナイル:それは、ものすごくうれしいですね。
渡辺:後を継ぐ者にとっては、お店ののれんやお得意さんを引き継げるというのは大きな財産ですね。
ナイル:それにうちのレシピですね。昭和24年に両親が作ったレシピがいまだに生きているから。もちろん当時のレシピから僕の代までで、だいぶ味は変わったんですよ。当時はいい材料がなかったからね。今はいい材料を仕入れられるから味はずっとよくなった。
うちの肉屋の伝票を見ると、例えばマトンが5・75 kgと書いてある。何でそんな端数が出るかというと、うちはいまだに尺貫法での注文なんです。それが今は何貫目は通用しないから尺貫法をkgに書き直しているんです。だから、今でもフライドチキンを400持ってきてくれと言うと400匁(もんめ)なんです。
渡辺:面白いですね。それも変えずに初志貫徹。
ナイル:変えないです。何貫目の鶏肉に何匁のカレー粉が入ると決まっているんです。匁は秤がなくても大丈夫、400匁の重さは自分の体が覚えている、これが昭和24年から続くナイルレストランのレシピなんです。
渡辺:レシピとはそういうものなんですね。
うちの職人もメジャーがいらないんです。体で数字を覚えていてそれで線を引きますから、仕事とはそういうものかもしれないですね。
ナイル:そうですね。壹番館の職人さんもうちのコックもそう、作る人間が自分の作るものに対して自信と責任感、それがなければ駄目なんです。自信のない人間が作った料理は美味しくない。それは自信のない洋服屋の職人が作った洋服に、いいものがあるわけないのとおなじです。
渡辺:気持ちなんですね。その人の持っている自信や責任感が味や仕上がりに現れるんですね。
ナイル:その意味で銀座という街は、経営者も素晴らしいし、かなり減ってしまったとはいえ番頭さんと呼ばれる人もいる。職人さんたちも自信を持って仕事をしていると思う。洋服屋、食べ物屋に限らず、すべての人たちが自信を持っている。
例えば小売店なんかでも、売っている店員さんも自分が売っている品物に対して、自分が作っていなくたって仕入れた品物を自信を持って売っているはずです。それが鯛は鯛なんです。よく「腐っても鯛」という表現をしますが。鯛は鯛。銀座は鯛なんです。
渡辺:鯛のままなんですね。
その鯛が、自信なさげに泳いでいてはいけないですね。
今後、銀座に期待することはございますか。今は不思議と有望な若手がたくさん銀座に揃っていますね。
ナイル:善己の友達なんかを見ていると、なかなかみんな一生懸命やっているし、まじめにやっている。あとは僕みたいに残っている年寄りの話もよく聞きなさいと。渡辺さんたちも、僕みたいな年寄りの話を聞く会なんかを作ってください。
渡辺:ぜひ企画させてください。
自分のおやじの話は煙たいものですが、不思議とよそのおやじさんの話だとすんなり素直に聞けるんです。(笑)
ナイル:うちの善己もきっとそうだろうね。僕だって若い頃はおやじの話を聞かなかった。それでも今の若い人よりは聞いていたかな。
時代がそうなんでしょうね。うちのおやじなんて本当に頑固者で一刻者だったから。
渡辺:政治的にもずいぶん志のある方で。
ナイル:うちの父はまったく商売を知らなかった。そんな全くの素人がやったから、かえって上手くいったのかもしれませんね。
渡辺:面白いですよね。 やっぱりその頑固さと自信は二代目、三代目にしっかり継承されていますね。
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ナイル善己 著 / 主婦と生活社 三代目善己さん著のレシピブック。 基本のインド料理をマスターできる。 |
平日/11:30〜21:30 日曜・祝日/11:30〜20:30 定休日/火曜日 東京都中央区銀座4丁目10-7 TEL. (03)3541-8246 |
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渡辺:ナイルさんは趣味も多彩で。
ナイル:僕は、コレクションを3つ持っているの。まずひとつはスコッチウイスキーのコレクション。レギュラーサイズで今、千数百種類を持っています。たぶん日本一じゃないかと思っているんです。
次のコレクション。これは僕より持っている人がいると思うけど、パトカーのミニカーです。ミニカーといっても大きなものをメーンに豪快な数をコレクションしていますよ。
渡辺:本物も持っていらっしゃいますよね。
ナイル:本物は救急車と消防車、それに白バイも持っています。
渡辺:たしか交番も持っていらっしゃいますよね。
ナイル:持っています。それは自宅の庭にある。(笑)
それともうひとつは警察関連のグッズ。一般公開はしていませんが都内に博物館を持っていて、そこに収蔵してあります。
その博物館には、僕が頂いた感謝状が1階から3階まで壁一面に掛けてありますよ。
渡辺:いつ頃から警察にのめり込まれたんですか。
ナイル:幼稚園に入るか入らないかの頃で僕は覚えていないけれど、パトカーを追いかけていって僕は迷子になった。当時一一○番制度ができる前で、うちのおふくろが警視庁に電話したらしいです「息子がパトカーについていっていなくなった」と。それから何時間かたって、保護されたわけ。「お巡りちゃんだ!」と言ってくっついていってしまったんですね。
最初に警察を見て格好いいと思ったのは、駒込警察で見た私服警官でした。そのお巡りさんが署内に連れて行かれる容疑者の後ろから腰ひもを持っていたんです。それを見て「格好いいな」と思った、今思い出しても素晴らしく格好いい警官でしたよ。
渡辺:幼心に鮮烈な印象だったんですね。そこからですから、本当に長いですよね。
私はナイルさんのコレクションが警察関連だけかと思っていたので、スコッチウイスキーもコレクションされていたとは驚きました。
ナイル:スコッチウイスキーのコレクター、たぶんパトカーのミニカーでも僕は日本一ではないかと思っているんですが、どうなんでしょうね。
渡辺:パトカーのミニカーに関しては、もう世界一なんじゃないですか。
ナイル:かもしれないですね。(笑)
渡辺:ナイルさんの数々の趣味は商売に何か活かされますか。
ナイル:直接活かされることはないけれど、今お話しした僕のコレクションは息抜きですね。
渡辺:息抜きがないとやっぱり駄目ですか。
ナイル:それはやっぱり必要ですね。それと、僕の一番の息抜きは自宅の庭なんです。
千葉の山奥に8,000坪の土地があって3,500坪をエンドフェンスしてあるんですが、毎週最低1回、普通は2回、植木屋さんと庭掃除のおばさんが入っているんです。
渡辺:それは凄い!
そんな広大な庭がビシッときれいになっているんですね。
ナイル:今度、その自宅で開催する僕の誕生会にいらしてください。
渡辺:ぜひお邪魔させてください。
本日はお忙しい中ありがとうございました。こうしていろいろとお話を伺えると、自分の仕事にも本当に勉強になります。今後ともよろしくお願いいたします。