銀座人インタビュー〈第20弾〉
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第20弾〉身体が求める自然の力 素食が生み出す健康と商い
ぎんざで素食 あさひな 上野 英子様

手間と暇と気持ち

渡辺:プラスアルファというのは、野菜を作るにしても、お料理をするにしても非常に手間がかかりますよね、それが今は作る人の負担になってしまっています。たしかに自然食などは多少お値段が高めですけれども、でも労力の大半が生産する方の負担になってしまっていて、善意で補われている部分が多いですよね。

上野:そうおっしゃってくださるのは、うれしいですね。
 この自然食というのは、まず使っている調味料が全部古式製造で普通の家庭で使っているお醤油の倍くらいのお値段です。油に限っては自然圧搾の油を使ってますが、これがまた高価で普通のお店で使うのは難しいと思います。

渡辺:もちろんお店ですから商売ということでやっていらっしゃいますが今、大方の商売が商いでもビジネスでも規模に関係なく利益を最大限にという方向で動いてる中で、有機農法にしてもそのお野菜を使ったお料理にしても、考え方のベースが違いますね。「食べて元気になっていただきたい」などといった、気持ちの部分が表に出ている感じがします。

上野:そうですね。また、不思議ですが良いものを作ってる人たちは、おしなべて儲けようとしないんです。それには本当に感動してしまいます。
 だからと言ってはおかしいかもしれませんが、実は私お酒が大好きなんですが、この自然食にしてから禁酒をしているんです。

渡辺:それはまた、どうして。

上野:なぜかというと、田島さんのお野菜を一番食べてるのは私なのに、その私がもし大病つまり不治の病などになってしまったら、死んでも田島さんにお詫びができません。

渡辺:なるほど。

上野:そこで、せめてこのお店をやっている間は禁酒しよう、と決めたんです。

渡辺:これまで伺ってきたお話で、もちろん食べ物というのはおなかも膨れて食欲が満たされるわけですが、食べ物によって身体が変わりますよね。

上野:そうですね、変わっていきます。

渡辺:さらに今の話は身体が変わるだけでなくてさらに、生きていることの考え方、姿勢にまで影響を及ぼすというのが非常に面白いですね。

上野:本当にそう思います。

渡辺:実際に食と身体というのはつながっているわけですから、言われてみればそうなのですが、今はそこが完全に分断されてしまっているのかもしれませんね。その結果として、37兆円もの医療費となってしまう。

上野:そうですね。

渡辺:しかし現在は20年デフレをやってきましたから安い食べ物でないと駄目だという風潮になっていて、その安い食べ物のツケが日本中に重くのしかかっています。

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 医療費の問題だけでなく、働く意欲、生きる意欲も減退してしまうのではと思います。政策で国の力を上げていこうということはもちろん、まず食べ物から変えていかないと人そのものが元気にならないわけですから、国の競争力も上がりませんね。

上野:たしかにそう思います。それに、胆力のある人間が育っていかないのではないでしょうか。

渡辺:人間としての力が食べ物に大いに関係しているのかもしれませんね。

上野:そうですね。いまだに西洋医学だけを信じている人というのは、食べ物で病が治るということが信じられないと思うんです。
 でも実際に人間の血液も細胞も口から入れた食べ物で作られるわけですから、味も素っ気も栄養も何もない添加物だらけの加工食品、これでは心も身体も疲弊してしまいます。

ごはんとごちそう

渡辺:少なくとも30年前は、お寿司やビーフステーキは非常にごちそうで、年に数回あるかないかだったと思いますが、今はコンビニに行けばお寿司が並んでいますし、ファミレスに行けばステーキが出てきます。もちろんごちそうは大事ですし、非常に夢を広げる部分ですから必要だと思いますが、ちょっと過ぎている感があります。

上野:それこそ形はたしかにビーフステーキやお寿司で見た目は同じかもしれませんが、内容は私たちが昔ハレの日にいただいたものとは全く違いますね。

渡辺:そうですね。

上野:私が以前、高齢者用のいわゆる高級マンションの専用レストランでパートでお勤めさせていただいていたとき、そのお食事にはとても驚かされました。思うところがたくさんありましたね。

渡辺:お食事の内容にですか。

上野:そうです。最低1億、もしくはそれ以上かけてご入居された方のお食事なのに、なんて栄養素に乏しいお料理なのかと思いました。

渡辺:見た目は華やかでも栄養として見たときにいかがなものかと。

上野:そうです。栄養、野菜のミネラル、ビタミンといったものが露と感じられないものだったんです。

渡辺:でもカロリーの帳尻は合っているわけですよね。

上野:栄養士さんが何人もついていて、その通りなんですよ。

渡辺:数字の辻褄は合っていても、その食べ物に力がないんでしょうね。

上野:そういうことなんです。
 私は齢を重ねていったときに本物の調味料で本当に愛情のこもったお料理を食べられる、これが本当に幸せなことなんじゃないかと感じました。

渡辺:田島さんのお野菜のような本当に力のある食材で。

上野:そう。お食事から生命力をたくさんいただいて免疫力をもっと高くする。そうすれば自然治癒力も高くなります。

渡辺:しかし、そういう食材はゴボウにしても根菜にしても見栄えが悪いと(笑)。

上野:そうです、黒いから(笑)。

渡辺:だからなかなかその価値に気付きづらい。本当のお宝はそういう地味な根菜、大事に育てられた有機の物に隠されているのかもしれませんね。

上野:そうですね。そんなことに気がついてくれたらいいと思います。やはり本物を食べて、本当に愛情のこもったお料理で幸せに過ごしてほしいとそこにお勤めしてるときにつくづく思ったんです。

渡辺:いい言葉ですね。本物の料理、高い・安いではなく本物の力を持つものですね。

上野:そう。それに年をとると量は食べられません。ですから本当に質の良い食材をそれに合わせた調理法で。一番幸せなのは本物の調味料で本当に愛をもって作られた、普通のお食事を食べられることです。

渡辺:美食ということではなくて良い食事、良食ですね。

上野:質の良い食材でしかも作ってくれる人が楽しくお料理すればそこに愛情があるわけです。笑顔でお料理したお食事というのは、愛情に溢れているんです。

渡辺:見た目の豊かさとは違った豊かさを味わえるのかもしれませんね。

上野:ええ。もちろん年に何回かのハレの日には・・・。

渡辺:美食も(笑)。

上野:楽しみです。少しのお酒と少し贅沢なお料理をいただくのはとても幸せです。

渡辺:毎日ケでは疲れてしまいますしね。

上野:そう。なにしろ元気で長生きする。これが大事です。

渡辺:本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

「これからのあさひな」

上野:先日、体調を崩しまして入院をしました。それで今、玄米と野菜を中心とした食養生を徹底的にやっているんです。

渡辺:若いときのご無理が?

上野:そうですね。この入院でいろいろな思いがよぎりました。過去の自分の生活ぶりや生きてきたいろいろなことも含めて、考えることがたくさんありました。

渡辺:お話をうかがってるといくつかのタイミングでお店の場所やスタイルが変わっていますね。

上野:そうですね。

渡辺:あさひなも丸6年ですよね。 また違うスタイルを、次に模索するような?

上野:いえ、違うスタイルは考えていなくて、本当はこのお店を70才まで続けたいという希望を持っていました。ところが、この5月の入院でなにしろ自分自身が健康でなかったら駄目なんだと思いました。今のあさひなは夜もちょっと遅いですし。入院中いろいろななことが頭をよぎってそのなかでも「物事というのは必ずそのとき、ふさわしい時にやってくる」という言葉が次から次へと繰り返されたんです。

渡辺:頭に浮かんできたんですね。

上野:これはこの病を大病の前の警告だと考えて、しっかりとそして素直に受け止めるべきなんだと思いました。
 この食に関しても、私の役目は終わったわけではなくて、今までやってきたことと、そしてこれからも。

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渡辺:関わり続けて?

上野:そうです。もっともっと関わり続けていたいと思いますし、年齢もまだまだ63ですから私はまだ全然若いつもりでいますけれども、この入院が教えてくれたものというのは大きいですね。

渡辺:その声を聞くも聞かぬも自分次第。また次のやり方になるんでしょうね。

上野:この銀座の自然食のあさひなというお店をやらせてもらって、様々なご縁をいただきました。例えば横浜のお寺さんのご法事のお料理を作ってもらえないか、とかね。そういうありがたいお話もいただきまして、少しずつではございましたけど、お手伝いさせていただきました。そういうのもありがたいご縁で、自然食だからこそそういうお声がかかったのかな、なんて思っています。
 今は、また新たなかたちで自然食に関わっていきたいと考えております。

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