銀座人インタビュー〈第22弾〉
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第22弾〉満100歳 銀座でコーヒーと65年
カフェ・ド・ランブル 店主 関口 一郎様

カフェ・ド・ランブル開業

渡辺:「カフェ・ド・ランブル」は、最初は外堀通りにあったんですね。場所柄お客さんは電通の方とかも多かったんじゃないですか。

関口:もちろんそうです。壹番館さんにとってもいいお客さんだったんじゃないのかな、電通の吉田社長なんかは。

渡辺:吉田さん。ええ、そうですね。週に1着洋服を作っていただいてましたから、とてもいいお客様でしたね。

関口:じつは吉田さんとは喧嘩したことがありますよ。よく取り巻きを連れて来たんですよ。吉田社長、それはそれは周りにおだてられていてね。

渡辺:ええ。

関口:大変いい気持ちになって、通ぶって、いろんな店で威張っているというか、鼻持ちならないような男でね。私は喧嘩をふっかけたわけですよ(笑)。

渡辺:どんな風にふっかけたんですか(笑)。

関口:社長社長って偉そうにしてるけど、同じ社長ならこっちも社長だ!ってね(笑)。

渡辺:ハハハハ。怒っていましたか。

関口:それから来なくなりました(笑)。

渡辺:そうですか。でも、そういう一時代を飾った人たちが来ていたんですね。

関口:ええ。電通はね、帳面にしてくれって言ってきたんですよ。「社員が来たとき、サインで飲めるように帳面にしてくれないか」って。でも電通だけは絶対にダメだって断りましたね。

渡辺:へえ、それはどうしてですか。

関口:「信用できない」って言ったわけ(笑)。

渡辺:ハハハハ(笑)。まあでも広告って、その当時はそういう感じだったんですね。

関口:そうですよね。でねえ、開業したものの営業を始めるまでが大変だったんです。

渡辺:道具や材料が揃わなかったんですか。

関口:いや、営業許可が下りないんですよ。この商売は簡単にできると思っていたんですけどね、まず飲食店の組合に入れてくれないんです。なぜ入れてくれないのかと聞くと、お砂糖だとかその他の喫茶店で使う材料が組合員に配給されるんですよ。だから会員が増えちゃうと、割合が少なくなっちゃう、だから入れない方針だと。

渡辺:物がない時代ですからね。

関口:そうなんです。区役所に行って営業許可の申請に行くでしょう。するとそこでもダメだって言うんですよ。

渡辺:区役所も許可を出さないんですか。

関口:組合に入っていれば割合スムーズにね、まあ何と言うんですかナーナーでやれるんでしょうけど、組合に入っていなかったから単独でしょう。最初の店の場所が、「ナンシー」という洋食屋があって、そこの路地の奥だったんですよ。でその路地の幅が傘がさせないくらいに狭かったんです。しかし新しい規則で路地が2メートル以上でないと許可は出せないと。そういう制度になっていたんです。

渡辺:当時でも許可なしで営業ってできないものなんですか。

関口:できないんですよ。看板があげられない。だからお客さんは、お馴染みのお客さんだけ。闇でね、来てもらっていたんです。でも、その時にお客さんや連れて来られたお客さんがみんな喜んでね。「こんなにおいしいコーヒーを戦後飲めるとは思わなかった」と、最敬礼で帰られるんですよ。こういうカウンターの中で対面の商売でしょう。喜ぶ顔がよく見えるんです。

渡辺:その時はもうキッチンの中で作らずに、カウンターの中で作られていたんですね。スタイルを変えられたんですね。

関口:ええ。その喜ぶお客さんの顔が何ともね、本当に嬉しくって。涙を流さんばかりにみなさん喜んでくれたんですよ。

渡辺:それはやりがいがありますね。

関口:やりがいがありますよ、商売冥利に尽きますね。対面でお客さんの喜ぶ顔を見るのが、嬉しくて嬉しくてね。

渡辺:なるほど。その後、営業許可は下りるようになったんですか。

関口:何としても許可をもらわないことには営業にならないからって、そう思ってたんです。そしたらね、あるお客が「相手がお役人で役所だからね、これ(賄賂)がものを言うんだから」と知恵をつけてくれたんです(笑)。

渡辺:へえ、どんな方法ですか。

関口:当時貴重だった、米軍のシガレットをワンカートン。それを包装してさらに新聞紙にくるんで役所に持って行って。で、席にそれを置いて忘れたふりをして帰って来ちゃうんですよ。そしたら次の日、電話がかかってきました。「営業許可を下ろす」って(笑)。

渡辺:ワンカートンで(笑)。

関口:ええ、ワンカートンでね。それで区役所の許可が下りたので、今度は保健所へ行って、保健所の飲食店の許可を取って。区役所はもうOKだから保健所はトントン拍子。それで正式に営業できるようになったんです。でもそれから、今度は別の意味で大変な苦労が始まるんですよ! お客さんが来て来て、おいしいって喜ばれてね(笑)。

渡辺:なるほど。嬉しい方の苦労ですね。

関口:文藝春秋という雑誌があるでしょう、「目耳口」という欄があるんですけど、その「口」の欄にね、朝日の記者が店の記事を書いてくれたんです。

渡辺:それはすごいですね。

関口:するとダーッとカフェ・ド・ランブルの名前が広まってね、どんどんお客さんが来るようになって。

渡辺:満員御礼ですね。

関口:そうなんですよ。昔は朝日と毎日、2つしか週刊誌はなかったんだけれど、読売や東京新聞などの週刊誌も出始めたんですよ。そしたらその週刊誌も取材に来てお店の事を書いてくれたんですよね。そうすると、もうそれこそ満員御礼ですよ。大変に繁盛して良かったですね。

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銀座のお客様

渡辺:今の場所に移られたのはいつ頃ですか?

関口:どのくらいになるのかな。今から45年くらい前になりますね。ここの建物なんて新築だったんですよ。

渡辺:昔は焙煎機が置いてあるお店なんて、なかったんじゃないですか。当時から全部揃っていたんですか。

関口:ええ、もちろん。私のコーヒーのあり方というのは、道具からして全部オリジナルなんですよ。ですから、いわゆる自家焙煎の走りですね。

渡辺:先駆者でいらっしゃったわけですね。今、ほぼ100歳でいらっしゃるから、商売を始めて65年。
 いかがですか、カウンターで対面でずっとお仕事なさっているといろいろなお客様がいらっしゃいますよね。何か思い出に残っている方はいらっしゃいますか。

関口:そうですね、一番よく来てくれたのは、先代の勘三郎さん。それこそ毎日のようにいらっしゃいましたね。

渡辺:そうですか。毎日そういうお客様と会話ができるというのは、素晴らしいことですよね。

関口:そうですね。当時有名だった方は、来なかった方がいないくらいです。

渡辺:そうですよね。ところで、今の世の中は60歳や65歳で仕事を引退されますけど、実際いかがですか。60歳過ぎてから約40年くらいあるわけですよね。ある程度、年齢がいってからのお仕事は、どのような感じなんでしょう。20代、30代とは全然違いますか?

関口:そうですね、今はコーヒーを煎る仕事が主なので少なくなってしまいましたが、お客様とお話しするというのはとても貴重です。

渡辺:西銀座の時代に来ていたお客様が今も多いんですか。

関口:いまだにずっと見えている方が多いですね。本当に長い方は、ほとんど開業と一緒に来始めて、ずっと来ているお客さんもいますよ。

渡辺:それは凄い。お馴染みさんというのはいいものですよね。

関口:そうですね、うちの場合は90%がお馴染みさんですね。いわゆる商売用語で言う一見さんというのはほとんどないんですよ。

渡辺:紹介とか連れて来てもらったりということですよね。ご商売なさっていて、信念みたいなものはありますか。これだけは守り続けようといったような。

関口:いや別にね、そんなに気負い込んだものは何もないですよ。ただ、自分がおいしいコーヒーを飲みたいというのが、もう最終目的というか。だから、そのための工夫ですね。

渡辺:いまだに工夫をされてるんですね。

関口:はい。オリジナルのグリッドミルなんかも最終的に自分で仕上げて作ったものです。私の場合は、輸入したコーヒー豆を煎ったり粉にしたり、それから袋でフィルターでたてたり、たてるための道具から、入れるカップまで終始一貫、全部オリジナルなんですよ。

渡辺:飲食業としてコーヒーをお入れするだけでなくて、その製造のプロセスにもこだわっていらっしゃる。

関口:もちろんそうです。自慢ではありませんが、そういう意味では銀座という場所は、昔からそういう特徴のある店だけが長く続いているというような土地ですよね。それと同時にね、私も経験してるけど、どんなに路地の奥のほうでも、看板が上がってなくっても、いい店はお客さんが探してくれるんですよ。

渡辺:なるほど。いい話ですね。

関口:銀座は昔からそういう街ですよ。

渡辺:すると表通りにある必要はあまりないんですね。

関口:ハハハ(笑)。それはね、もう極端な言い方をするとね、いろいろな通りがあるでしょう。その通りによってお客さんの客筋が違うの。

渡辺:通りで個性が違うんですね。面白いですね。それは昔から変わらないですか? 戦前、戦後から今まで。

関口:まあ戦後ずいぶん崩れましたけどね。でも銀座という土地柄は自慢していいんじゃないですか。

渡辺:すると個性が無ければ銀座では残れないですね。

関口:個性がないとダメですね。

渡辺:高い安いではなくて。

関口:そうです、値段ではないんですね。その個性に惹かれて個性的なお客様が来る。同じようなものがたくさん世間にあって、その中でもこれだけは銀座でなきゃダメだというお店、それを見つけるような洞察力というか。

渡辺:ええ。いいものを見極められる力を持っているお客様が多いんですね。

関口:そういうものを持ってるお客さんが多いわけです。

『煙草と珈琲』関口一郎 著/いなほ書房
『煙草と珈琲』
関口一郎 著 / いなほ書房

渡辺:やはり常日頃研究していないとダメですね。

関口:そういうことです。そういう意味では、本当に切磋琢磨していなければ置いていかれてしまいますね。

渡辺:やはり一生勉強なんですね。

関口:そういうことだと思いますよ。

渡辺:お忙しい中、本当に素晴らしいお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
 これからも関口さんの焙煎した、本物の美味しいコーヒーを飲ませてください。

カフェ・ド・ランブル
営業時間
平日・土曜 12:00〜22:00 (L.O.21:30)
日曜・祝日 12:00〜19:00 (L.O.18:30)
定休日
年中無休
中央区銀座8-10-15
TEL. (03)3571-1551
FAX. (03)3571-1556
http://www.h6.dion.ne.jp/~lambre/
カフェ・ド・ランブル
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