銀座人インタビュー〈第23弾〉
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第23弾〉蕎麦と共に130年 明治より続く老舗の伝統
そば所 よし田 女将 矢島 一代 様

名物「コロッケそば」

渡辺:よし田さんくらい一品料理が充実しているおそば屋さんは、なかなか珍しいですよね。

矢島:ええ。先ほどお話しした、戦後のおそばを出せなかった頃のなごり、その影響が大きいですね。

渡辺:面白いですね。「コロッケそば」をはじめとして、おそばの名物もたくさんありますが、お鍋を中心とした料理も充実していますよね。例えば鴨鍋なんかも抜群に美味しいですからね。

矢島:ありがとうございます。でも、10月になってもこんなに暖かいとお鍋が出なくて困っております。

渡辺:やはり違いますか。

矢島:出ませんねえ。

渡辺:さすがに気温30℃じゃ、鍋物を召し上がりませんね(笑)。
 やはり季節とお料理はかなり関係していますか。

矢島:もちろんそうですね。うちの場合はやはり夏は鍋物はあまり出ませんね。

渡辺:今もメニューは増えているんですか。

矢島:今は、あまり増えていないですね。中華料理なんかと違って日本そばの場合は、そんなにバラエティに富んではできないですね。

渡辺:「コロッケそば」は、元々どなたが考案されたんですか。

矢島:浜町の「よし田」です。
 そのレシピを初代のおばあちゃんが受け継いで、それをうちの父と母がまた受け継いで。今、「コロッケそば」を出しているのはうちだけですね。

渡辺:へえ。なるほど。こちらでしか食べられないんですね。

矢島:ええ。しかし、そのコロッケというネーミングが誤解されてしまうこともありまして。パン粉がついているわけでも、ジャガイモを使っているわけでもないんですが。戦後、急にアメリカナイズされて英語が氾濫しましたでしょう。そのときにアメリカにおもねって出来た物だと思われた方がいらっしゃったとみえて、朝日新聞に「コロッケそばなんていうのを銀座で作るとはけしからん」みたいな投書が載ったんです。

渡辺:それは、悩ましいですね。

矢島:そしたら、「いや、違う。あれは明治時代からあるんだ」って反論を載せてくださった方もいて。それを見て母と、コロッケという名前をどうしようかって考えたん事もあるんです。お客様に聞かれるたびに説明するのも大変ですし、ジャガイモのコロッケがボンと乗っかっていると思われる方がいて、私たちとしてはすごく嫌だったんですね。でも、なかなかいい名前が思い付かなくて。

渡辺:いや、いい名前ですよ。

矢島:結局。そのままでいい、と言う事になって。はじめは本当に「何だコロッケなんてそんなもの」なんて面と向かって怒る方もいました。
 でもこの頃はテレビや雑誌で紹介していただいたので、だいぶ浸透してきました。

渡辺:コロッケは、油で揚げているんですか?

矢島:そうです。160℃から170℃ぐらいの低温でじっくりと。

渡辺:なるほど。

矢島:きめが細かいですから。つくねというよりも「鶏しんじょ」ですね。じっくり揚げないと中まで火が通らないんです。でも、召し上がってみてわかるように、そんなにおつゆに油が浮かないですよね。意外と脂っこくないんです。

渡辺:そうですね。

矢島:ですから、お年寄りの方やご病人、若い方でダイエットしている方たちにもいいんじゃないかと思うんです。

渡辺:確かにそうですね。

矢島:素揚げですからね。

渡辺:「巣ごもりそば」は息子さんが池の端の藪蕎麦から持って来たとおっしゃっていましたよね。

矢島:そうですね。

渡辺:こちらもまた本当に美味しいですね。

矢島:ありがとうございます。池の端さんで考案なさって、申し訳ないので銀座の本店ではやらなかったんですが、横浜の店を始めるときにお品書きに載せさせていただいてよろしいか伺ったところ、いいお返事をいただいて始めました。
 これも結構手がかかるんです。そばもすぐに焦げますから、低温でじっくりべしゃっとならないように、揚げ方もちょっとコツがあるんです。

渡辺:また少しずつでもメニューが増えて楽しみですね。

銀座は故郷

渡辺:女将さんはまさに銀座生まれ銀座育ちで、長年銀座でご商売をなさって、銀座の様々な面を見てきていらっしゃると思いますが、銀座の好きなことろはどんなところですか。

矢島:安心して歩けるところですね。今、私は世田谷から通っていますが、1日店におりますからほとんどの時間を銀座で過ごしています。家には寝に帰るだけです。銀座にも物騒な面もあるのかもしれませんが、私の知っている限りでは夜中に歩いても安心な街だと思いますし、やはりきれいですしね。
 私が一番好きなのが、温泉に行ったり何かで東海道線や新幹線で新橋のところを通りますよね。新橋駅にかかるところです。そうすると、銀座通りがずっと見通せる一瞬がありますでしょ。

渡辺:はい、ありますね。

矢島:そうすると、京橋まで見えるんですね。それを見ると「ああ、銀座に帰って来たな」と思うんです。

渡辺:私もそうですが、大なり小なり銀座でご商売なさっている方は“銀座が故郷”といった感覚を持っていると思います。

矢島:そうですね。それはとても感じます。

渡辺:銀座が見えてほっとする。現代的であり情緒がありいいですね。
 そんな故郷の銀座ですが、今後の期待やこうなって欲しい、逆にこうなっては困る、といったことはありますか。

矢島:そうですね、渋谷や表参道の竹下通りのように、もう少し若い方にいらしていただけるような銀座になったらいいんじゃないかなと思いますね。この頃は、良いにつけ悪いにつけ中国の方がだいぶ銀座にいらして、銀座通りなんかはもう中国語が飛び交っていますね。

渡辺:ええ、多いですね。

矢島:うちへも大勢いらっしゃいます。

渡辺:おそばを食べにいらっしゃいますか。

矢島:ええ。でもどちらかというと韓国の方が多いですね。韓国は冷麺にそば粉が入っていますから、そば粉そのものにあまり抵抗がないみたいです。
 向こうのガイドブックに載せていただいたのか、それを見ながら入ってみえる方もいらっしゃいますね。

渡辺:インターナショナルな老舗そば店。 いいですね。

矢島:少し昔、韓国の方はご自分で持って来たキムチなんかを出されたりして。「それは申し訳ありませんが、しまってください」ってこともありましたが、この頃はそういうことはないですね。

渡辺:なるほど。そばもだんだんと漢字の蕎麦から英語の“SOBA”となって、国際的なものになっていきましたね。

矢島:そうですね。オリンピックもありますしね。今も英語と韓国語と中国語と3カ国語のメニューを用意してあるんです。

渡辺:そうなんですか。それは素晴らしい。

矢島:イタリア語、ロシア語、ポルトガル語なんていうのもつくらなきゃだめよなんていう人もいますが。

渡辺:面白いですね(笑)。オリンピックが来ますから、我々もますます頑張らないといけませんね。

矢島:ええ。銀座はその頃どうなっているんでしょう。楽しみですね。

渡辺:いろいろな方に喜んで来ていただける、素晴らしい銀座にしたいですね。競技も近くでやりますからね。

矢島:そうですね。それが銀座に流れて来てくれれば嬉しいですね。それこそ、渡辺さん達若旦那や若い方々に頑張っていただいて。

渡辺:いえいえ。

矢島:私なんぞは、その頃はもういないと思いますよ。

渡辺:何をおっしゃいますか。銀座のためにも、まだまだご活躍をお願いします。これからもいろいろご指導ください。
 本日はお忙しい中、とても面白いお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。

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そば所 よし田(銀座本店)
営業時間
平 日11:30〜22:00 (L.O.21:30)
土曜・祝日11:30〜21:00 (L.O.20:30)
定休日
日 曜
中央区銀座7-7-8
TEL.(03)3571-0526
FAX.(03)3574-8655
そば所 よし田(銀座本店)
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