銀座人インタビュー〈第24弾〉
銀座にゆかりの深い「銀座人」たちに弊店渡辺新が様々なお話しを伺う対談シリーズ。普通では知ることのできない銀座人ならではの視点で見た、銀座話が満載です。

銀座人インタビュー〈第24弾〉三年五作。 里芋名人の畑を訪ねて
タジちゃんの新鮮野菜 田島 穣様、上野 英子様

銀座人インタビュー。今回は少し足を伸ばして、栃木県鹿沼市へ。第20弾にてお話を伺った、
あさひなの上野様が絶賛されていた里芋名人の田島様の畑に伺いました。
真摯に農業に向かわれている姿勢には、この努力あってのこの野菜。と感銘を受けました。

田島さんの農業

渡辺:田島さんが今の農法を始めたのは、どれくらい前ですか?

田島:今から32年前です。当時は“どうしてそんなことやってるの?”と、みんなに笑われました。

渡辺:いい畑になる土地というのは見分けられるものなんでしょうか?

田島:草が全面に生えているようなところは使いやすいです。その草を畑にすき込んでいくんです。

渡辺:それでまた土の養分になってくれるんですね。雑草はあったほうがいいんですか?

田島:ほどほどにですね。

上野:田島さんの畑は雑草を取りませんね。

田島:私は自然には無駄なものは何もないという考えなので雑草は取りません。

渡辺:化学肥料ができて農業が駄目になったというのも皮肉ですね。

上野:その通りです。なぜかと言えば、手間暇を省いたからなんです。

渡辺:土地が駄目になると、麦ができなくなってしまうんですか。

田島:はい。土地がやせてくるとできなくなります。

上野:だから日本は小麦がだんだん作れなくなったんです。また、品質検査が厳しく検査に受からない麦が多く出るようになったのと、価格が安く利益が出ないのでつくる農家が少なくなってしまったんです。

田島:化成が全て悪いとは言えませんが、化成が出来たことで作物の味は下がっていったし、あとになってみれば、化成で楽をしたがために土地を荒廃させてしまった農家もたくさんいます。

渡辺:やはり化成を使うと相当楽なんですか?

田島:例えば、鶏糞だと15キロの袋を20袋振らなくてはいけないところを、化成肥料だったら3袋ぐらい。堆肥は化成肥料3袋に対して100袋分ぐらい必要です。

渡辺:いま田島さんがやっている三年五作は、昔の人もやっていたんですか?

田島:昔は葉物が入らない三年四作ですね。

渡辺:それは伝統的な農法なんですね。里芋ができなくなってきたのは戦後ですか?

田島:15年ぐらい前ですね。私の親の世代、今70から80歳ぐらいの人たちが農業をしていた頃からです。
 価格が安いのと、輪作を守らなかったので里芋ができるような畑じゃなくなってきたんです。

渡辺:やはり里芋はセンシティブなんですね。

タジちゃんの新鮮野菜 田島 穣
タジちゃんの新鮮野菜
田島 穣
三年五作の有機農業で、里芋をメインに
ニンジン、キャベツなど様々な農作物を育てる。
田島さんの畑作りは奥様と二人三脚。
田島さんの畑作りは
奥様と二人三脚。

田島:畑がよくないとできないですね。特に連作は無理で、2年目はもう同じ畑とは思えなくらいとれないんです。

渡辺:とれなくなるというのは、里芋が小さくなってしまうんですか?

田島:それもありますが、生育途中で真ん中の親芋が腐ってバラバラになってしまう。親芋がなくなると芋は真ん丸にならずに、みんな細い桑みたいな筋になってしまう。
 私が生まれた頃は食糧をもっと増やそうと開田ブームがありました。いくらでも米を買いますという国の方針があったから井戸を掘って畑を田んぼにした。それで三年四作の田畑輪換ができるようになったんです。それが一番楽で効率もいいんです。
 畑ではないので、ムキになって草むしりをしなくてもいいし、畑が荒れてきたり草が出てきたら田んぼにすればいい。畑のあとに田んぼにするから、田んぼの雑草が生えにくいんです。畑から田んぼにした時は、米がたくさんとれますし、また、田んぼから畑に戻すと肥料をあまりやらなくても野菜がよくとれるようになり、病気にもかからなくなるんです。

上野:田島さんの畑に水を引いたというのは、用水を引いたんですか。

田島:井戸水です。僕が小学生の頃、昭和45〜46年ぐらいに井戸水を3年掛かりで引きました。

上野:お父様も既にこういう農法を、と思っていらしたんですか?

田島:それは気が付いていたと思います。
 父の代からあまり農薬は使わなかったんです。農薬で治すよりは、病気にかからないようにしたほうがいいだろうという考えだったんでしょうね。

渡辺:人間の身体と一緒ですね。薬を飲むなら、病気にならないようにしたほうがいい。

里芋をいける

田島:これから1m20㎝ぐらいの幅で深さ15センチほどの穴を掘って、そこに冬場の芋をいけるんです。年が明けたらその埋めた里芋を少しずつ掘り起こして、出荷していきます。

上野:なるほど。ここは里芋の貯金箱ですね。

田島:そうです。里芋の葉っぱは、お盆過ぎから1枚1枚外葉から垂れてきます。畑が明るくなってきたら収穫の合図なんです。

上野:農作物で一番難しいのが里芋で、田島さんはその里芋づくりの名人と呼ばれているんです。

渡辺:埋めて保存するなんて不思議ですね。

田島:里芋は冬の寒さに耐えられないので、埋めて保存するんです。特に化成肥料でつくった里芋は腐りやすいですね。一つ一つの細胞が大きいから水っぽくて、あまり保存には向かないんです。

上野:キュウリも全然違いますよね。今スーパーなどで売っているキュウリは、えぐみがすごい。里芋もゴリゴリしているし、じゃがいもも、普通に売っているものは質が良くないです。野菜が農薬から体を守ろうとして硬くなるんですか?

田島:農薬というか、病気から身を守ろうとして硬くなっているんだと思います。
 私の解釈なんですが、細胞が大きいから壊れると修復がつかず、そこから腐っていくんだと思うんです。小さい細胞だと壊れても、隣の細胞が大きくなると埋まって傷が治るんだけれど、化成で無理やり育てた大きいものは傷が治らないで腐ってしまう。

渡辺:里芋をいけて保存しているのは、田島さんだけですか?

田島:他にもいらっしゃいますが、少なくなっています。

上野:農業の基本は土ですよね。だから、これはたぶん誰もまねできない。里芋づくりの名人といわれるのはそこなんです。有機農業をやっている人たちからそう呼ばれているわけですから。

渡辺:プロの間でそう呼ばれているんですね。

上野:私は肋骨2カ所のヒビをこの里芋の湿布だけで治したんです。整形外科医70歳の大ベテランが、写真を比べなければどこにヒビが入っていたのか、わからなかったっておっしゃたんです。

渡辺:里芋湿布ですか?

上野:そう、里芋湿布のみで1カ月。
 実際は1カ月かからず、2週間でした。先生が1カ月経たないとレントゲンを撮らないとおっしゃるので、1カ月後に撮ったらどこだかわからないほど綺麗に完治していたんです。
 里芋は本当にすごい。東洋医学の自然療法では、体の中の毒素を全部出すわけですが、内臓、小器官の悪いところに里芋をすりおろして小麦粉とショウガを1割入れたもので湿布するでしょう、するとどんどん毒素を引き出すんです。私は、田島さんとご縁があってから、医者いらずと思ってるんです。全部野菜で治しちゃうんですから。
 田島さんは「おいしい野菜、うまい野菜」とはあまりおっしゃらないんです。心が安らぐような、気持ちの安らぐような野菜をつくりたいと、今までやってこられたわけだから。ただひたすら本当に体にとって素晴らしい野菜、それを目指しているんです。根本が全く違う。ですから、田島さんの野菜に縁のあった人はもうそれだけで幸せだって、私は思っているんです。

力を持ったニンジン

上野:田島さんの農法を周りの方も羨望の眼差しで見ているかもしれませんが、そういう努力をなさっている。だから、ずっと続いているこの土地を、もっともっと生かして欲しいという願いがあるんです。里芋もさることながら、ニンジンもとても差が出るんです。

渡辺:甘いんですか?

上野:甘いだけではなくて、この葉っぱも素晴らしいんです。

渡辺:葉っぱをお茶に入れていましたね。

上野:そうなんです。ニンジンの葉を洗って5日ほど干すと、お茶葉になるんです。このニンジンのお茶葉を煎じてお茶にしますと、お年を召した方の加齢臭をすっかり消してくれるんです。便も匂わなくなるんですよ。ということは、もう体臭を全部なくすんです。

渡辺:すごい自然の力ですね。

上野:ビタミン類が多いですからね。サラダにも、かき揚げにもいい。このニンジンの葉っぱは素晴らしい力を持っています。
 田島さんの野菜を食べて何が違うかといったら、例えば甘い物が欲しくなくなるんです。甘党の人が、ケーキだあんころだって言うでしょ。ところが田島さんの野菜をしっかり食べていると体や脳が満足しているから間食をしたくなくなるの。体に不必要な砂糖とかは必要ない。もう十分この野菜に糖分が含まれているからなんです。

渡辺:スーパーなどで売っているニンジンと田島さんの畑の物を比べると、何が大きく違うのでしょうか?

田島:私も詳しくはありませんが、ニンジン農家は同じ畑で何作もつくっている。するとニンジンは自分の好きな養分を吸い尽くしてしまって、だんだんとできづらくなってしまうみたいです。
 できなくなると堆肥を山のように入れてみたり、それでも育たないと今度は病気に強い品種のニンジンを蒔いて、それでまた、たくさん肥料をやる。すると病気や虫が出やすくなるので農薬をまいて防除して、と、驚くような作り方をしています。

渡辺:単一種を続けてつくるのは、一見効率的に見えても、実はそうではないんですね。

田島:私から見ると非効率ですね。効率と非効率のラインが見えて気が付いて、行ったり戻ったりするのは農家の中でも本当のプロなんですが、畑の限界を超えてるのに無理やりつくろうとするのは苦しいですよね。

渡辺:突っ走ってしまって、薬や大量の堆肥で補おうとしている。

田島:補なっていても収量が下がって、結果的には非効率になってしまいます。

渡辺:どんどん先細ってしまいますよね。

田島:そう。だから、最後には辞めてしまって、そして別の作物をつくり始めるんです。

蒸し野菜。もちろん田島さんの畑で採れたもの。
上野さん曰く、田島さんの野菜を一番美味しく
食べられる調理法。
蒸し野菜

土と放射能

渡辺:原発事故の後、田島さんの畑だけ放射能レベルが低かったと伺いました。

田島:他のところよりは低かったです。この地域はそれほど降りませんでしたが、それでも他と比べるとかなり低かったです。

渡辺:やはり、土に力があると違いますか?

田島:土壌コロイドというのがあるんですが、その土壌コロイドにプラスとかマイナスのイオンが付いているんですね。それが肥料を付けたり離したりしているんですが、土が柔軟で団粒構造で土壌コロイドがいっぱいあると、土壌コロイドに放射性物質が付く。団粒構造がよくできている土だったら、放射性物質を植物が持っていけないように土が握って、作物にはあまりいかないんです。
 うちは鶏糞を使っていることもあるし、土を柔らかくしたいので、天地返しできる機械で土をひっくり返すんです。
 鶏糞に抗生物質などが入っているといやなので、抗生物質は太陽に弱いので地面の奥に入っているといつまでも残っているけれど、ひっくり返して太陽に当てることで分解させているんです。

渡辺:放射性物質は消えてなくなるものではないですから、それが下に降りていくと地下水なども心配ですよね。
 土から放射能がでている畑で作られた野菜を食べても大丈夫なんですか?

田島:今のところ野菜には出ていないですね。
 原発事故直後、雨が降って表面に付着したものは出ましたが、地面から吸って作物に出たというのはないんです。関東近辺もそんなに神経質になることはないと思います。

渡辺:お話を聞いてすごく安心したというか、びっくりしました。土が元気だと放射能もはねつけるというのは、すごいことですね。

力のある土は放射線を野菜に出さない
田島さんの畑の放射線検査結果
放射線検査結果