銀座の街づくり、街おこし活動をしている「銀座くらま会 からす組」の連中の話をお届けいたします。
また、からす組の邦楽指導をしていただいている、鈴木雅雄こと常磐津兼太夫さんとの対談もございます。
渡辺:先日、外国の観光客で、銀座には行かなかったという話を聞きましたが、どうしてでしょうね。
広瀬:ほとんどの情報をインターネットで検索しているから、そこに情報が出てこないと、やはり銀座には来ないですよね。
佐々木:外国人のバイブルである「ロンリープラネット」というガイドブックには、新宿のゴールデン街が紹介されていますよね。
広瀬:そうそう。歌舞伎町にある「ロボットレストラン」がアメリカではものすごく有名で、アメリカ人は皆さん行きたがりますよね。だから、我々が思っている「日本に来たら、ここ」というのと、外国人が思っているのとでは今はギャップが出てきているんです。
今田:外国人だけではなく、20代の人ともすごいギャップがあります。
佐々木:30代、40代の人も、「普段は銀座に行かないから、よくわからない」という方が結構いらっしゃいますね。皆さん、銀座に行ってもつまらないとおっしゃいます。特に夜は食事をするお店がわからないので行かないという方、多いですね。
広瀬:それ、私も同じかもしれない。なかなか、わからない(笑)。
佐々木:銀座の街おこしをしようとこうやって頑張っているので、街づくりのためにいろいろアイデアを出していくのはいいことですよね。
渡辺:そうですね。銀座というと、銀座通り、晴海通りの大きい会社、主に上場企業とか海外のブランドが並んでいる所があって、それはそれで銀座の顔ではあるのですが、ちょっと1本入ると、私たちのように顔の見える商売がとたんに広がりますよね。大きな開発は大きい企業に任せればいいんですけれども、私たちのようなサイズの商店が、さらに街を面白くしていくには、どういうことをすればいいんでしょうか。
佐々木:おそらく、今の若い世代の方は、私たちのようなお店を知らないし、入ったことがないと思うんです。知られていないだけ、触れていないだけとかいうのがとても多いので、気軽にお店に入れる仕組みがあるといいですよね。
鈴木:そこでしょうね。皆さん、銀座は未知の世界で少し怖いんですよ。
佐々木:絶対にそこだと思うんです。だから、気軽に行けるということを教えてくれるガイドのような人を立ててうまく誘導してあげて、「こういうものもあるんですよ」というのを知ってもらう努力は必要でしょうね。
広瀬:僕の専門のマーケティングから言うと、「まず誰に来て欲しいか」ですよね。欧米の人に来て欲しいのか、アジア系の人に来て欲しいのか。それとも日本中から来てほしいのか。ターゲットによって、もしかしたら誘導の仕方が変わってしまうかもしれないですね。今の銀座は、やはり中国人が多い印象ですね。
ですから、中国などのアジアの人をもっと伸ばすのか、アメリカ、カナダ、オーストラリアの人にも来てもらうようにするのか、それによっても多分メッセージは変わってきてしまうかもしれませんね。
千谷:昔は日本人が全国から観光に来ていて、外国人はそんなに多くなかったから、ターゲットを絞る必要はなかったということですね。
庄司:外国人が銀座に入って来ることをあまりよくは思っていないお客様も、きっと多いでしょうね。私ももっと日本人に来て欲しいです。
渡辺:でも現状は、外国のお客様も増えているので、私たちとしてはできればリピーターになっていただきたいわけじゃないですか。一度来ておしまいという、ドライブイン的なものになっては非常にもったいないので。
鈴木:それだなあ。
庄司:こういうサイズのお店だと、「あのお店すごく店長が面白かったから、また行きたい」というリピートのお客様がいないと、お店の魅力はわかってもらえないですよね。
渡辺:そうそう、リピーターが増えるのが一番、銀座にとって自力が出るのです。
鈴木:絶対そうですね。
庄司:そういうお客様が、また他のお客様を連れて来てくれるということになると思うんです。「あのお店すごいのよ、面白くて」って。
渡辺:お寿司なんかはリピーターが多いんでしょう?
今田:リピーターはかなり多いですね。海外の方でも、また戻って来てくれます。
渡辺:「また九兵衛さんに行きたい、またお寿司を食べたい」と言って、何度でも来てくれたりとかするんですよね。
庄司:ハワイの人は、必ず九兵衛さんに行きたいと言いますね。
今田:最近ものすごく多いみたいで、カウンターが海外の方で埋まってしまいます。
渡辺:すばらしい。
佐々木:いいことですね。
渡辺:でも、よく欧米人に生魚を食べさせましたよね。それがすごい。すきやきやしゃぶしゃぶのほうがハードルは低そうなのに、一番ハードルの高い生魚をよく、まあ。久兵衛さんの仕事の丁寧さというのが伝わるんでしょうね。
広瀬:外国人はお寿司を食べると健康になると思っていますからね。
鈴木:20年ほど前から、カリフォルニアあたりはそういう考え方がありましたね。
佐々木:でも彼らが思っているお寿司は、私たちが思うお寿司ではなかったりするんですよ。
渡辺:カリフォルニアロールですね。
広瀬:そうなんです。実際、オバマ大統領は「次郎」へ行って、半分残しましたよね。彼らが思っているお寿司とはギャップがあって、びっくりしてしまって食べないんです。
佐々木:だから本物の江戸前寿司をおいしいと思えるかといったら、それは別問題なんです。
広瀬:日本人が考えるお寿司と、外国人が考えるお寿司は、若干違いがありますよね。
鈴木:でも、それも含めて皆さんお寿司が好きなんですよね。
佐々木:そうなるとすごいですね。九兵衛さんに来た方は、また来たいって。
鈴木:味のわかる方が来てくれているんですね。
渡辺:着物もギャップがありそうですね。
広瀬:アメリカ人は浴衣のことを着物と言っていますからね。
鈴木:日本の和服イコール着物ですね。
渡辺:映画「007」ですごいの着ていたじゃないですか。
千谷:ガウンですね。
鈴木:外国の人が求めている日本というのは、日本ではなくて彼らの固定観念の日本なんです。アジアをひっくるめた日本なんですね。
千谷:それはそれでいいと思うんですけど、私の危機感は、日本人もそうなってきてしまっているのが怖いんです。今は、日本人から見た着物がそれになってしまっているから。
田中:そういうことですよね。
千谷:だから、やはり日本人にちゃんとしたものは知ってもらいたいと思います。
広瀬:スーツは着るけれども、着物はなかなか着ることがありませんからね。
渡辺:先日、千谷さんが「子どもにこそ、本物のいい着物を着てほしい」と言っていたじゃない。最初に変なものを覚えてしまうと、ずっとそれで育ってしまう。
庄司:着物だけにかかわらず、味覚もそうですよね。何でも本物のわかる人が少なくなりました。触っていい、食べておいしい、何かこれいい、という美的感覚だったり、そういう本物が嗅覚でわかる人が少ないのかもしれないです。
渡辺:九兵衛さんは短パンのお客様も入れていますか?
今田:入っていただいています。ドレスコードは全くありません。
佐々木:外国だとそのスタイルは普通ですものね。
渡辺:すごく楽しみにして、ものすごくおしゃれして来られる方もいらっしゃるわけでしょ。
今田:いらっしゃいますね。すてきな着物でいらしたりとか。一応お席の振り分けをしますけれども、うちはそういうルールはあまりないんです。
渡辺:うちはTシャツで来られると仮縫いができなくなってしまうから、多少困ります。
佐々木:チャレンジングですね。
渡辺:それだとサイズが出せないんですよね。
鈴木:出せないですよね、とりあえず襟のあるものを着ていただかないと。
佐々木:根本的なところで、よくわからない。というのが、多分今の日本人なんでしょうね。 例えば昔は、自分のおばあさんが浴衣を縫ってくれたこととかあったじゃないですか。そういうことがだんだん無くなってきていて、親もわからないから、子どもに教えられないんです。だから今は、子どものうちの教育というのが本当に大事だと思います。
千谷:そういうことを銀座で教えられるようになるといいですね。
田中:でも一般論にするのは結構難しいですよね。僕は子どもに浴衣を千谷さんのところへ連れて行って作ろうと思っていますが、安いところは三千円、五千円で売っているじゃない。そうすると、うちの奥さんの感覚だと「なんで五千円の浴衣があるのに数万円のを作らないといけないの」みたいな感じで。
渡辺:でも、今回思い知ったことで、千谷さんのところで作った浴衣を着て、お囃子の会に行ったんですよ。そうしたら、周りの反応が違う。
鈴木:芸者衆だからでしょう。見ればわかりますよ。
渡辺:やはり、プロは目が肥えてますね。
田中:うちは、子どもが着ている浴衣を「こんなしょうもないものを着て何だ!」と言うと、僕一人が悪者で。せっかくみんなが喜んで和服を着ているのに、お父さんだけがものすごく意地悪な人みたいな。家族中に攻撃を受けるわけです。でも僕は日本の文化で商売をしているから負けてはいけないんだけど、それでさえ相当がんばるわけです。
佐々木:この前、妹に切々と「この浴衣はおかしい。こんなのを着ているのは恥ずかしい」という話をしたんです。でも妹は、「例えば収入とかを考えると、いいものを着られない人もいる。いい浴衣を着るということに重きを置くという人もいれば、そうでない人もいるから、一概には言えないんじゃないか」と言われました。そういうのもありますよね。
田中:昔の人はみんながみんな着物を作ってもらっているのではなく、おばあちゃんやお姉ちゃんの着物を着ていたんです。古着を着るという文化なんです。だから必ずしも千谷さんのところで仕立てるとかではなく、いいものなら古着を利用するものいいかと。
千谷:得体の知れないナイロンの浴衣よりは古着のほうがいいですよね。駅でそういうのを着ている若い子を見るとかわいそうになります。
渡辺:でも、それもあったほうが僕はいいと思うんです。さっきのお寿司の話じゃないけれども、カリフォルニアロールがあってこそ本物の江戸前の良さがわかるというか。
佐々木:どこで気づいて、その分岐点を設けるかだと思うんです。
渡辺:でも、どっちが本筋かというのがわからなくなってしまうと、それはまずいですね。
千谷:私は自分でまずいなと思ったのは、そういうのを初めて見たときは「うわーっ」と思ったのに、最近は何も思わないんです。慣れてきてしまった自分が怖いなと思って。
鈴木:最近の成人式用のカタログを見たことありますか? すごいですよ。花魁というのがあるんです。娘と「何、これ」と言って笑いながら見ていますけれど。
庄司:二十歳になる子がそれを選ぶというのは、ちょっと恐ろしいですね。
鈴木:でもわからない人にとっては、きちんとしたものを知らないから、日本っぽければきっとOKなんでしょう。
佐々木:彼らはそれがファッションだと思って買うじゃないですか。
鈴木:コスプレだったら楽しいのでしょうけど、大人になった証の日に「花魁」というのは、やはりちょっと違うだろうと。
庄司:呉服屋さんが始めているということですよね。
鈴木:そうです。呉服屋さんが始めています。きちんとしていようが、していなかろうが、もう売れればいいというスタンスなんですね。
庄司:自分の首絞めている。
佐々木:そういう人たちは、要は商売として売れればいいんでしょうね。
鈴木:多分、長く持つ上質なものを買おうという発想がないですよね。
佐々木:ええ、やはりいいものというのは代々受け継いでいくのではないですか。着物もそうですし、親から来たものは自分ももらっています。特に昔の着物っていいじゃないですか。
鈴木:でも着物はなかなか着ないですよね。面倒くさいですもん。僕らは仕事ですけれど、一般の方から見たら、これだけの時間をかけて着るのは大変ですよね。
今田:私のときは、成人式でさえ着物を着る方がものすごく少なかった時期があったような気がします。でもその時に比べたら、今は着物を着ようと思いますね。
千谷:そう、私たちの時代よりは今の人のほうが着るんです。
今田:着物を着ようとか、ちょっと面白いファッションをしてみようとか、そういうことに興味を持ってくれている人が多いことに対して、ものすごくうれしいです。
千谷:そういう風に興味を持ってきたところに、違う方向に行ってほしくないですね。
今田:こういうシブいのもあるんだよ、というのを知ってほしい。
渡辺:ちょっと時間はかかると思います。例えば、この間作ってもらった浴衣を着ると、すごく涼しいし、評判もいい。そうすると「安いからって変なものを作るよりは、こっちのほうが得だ」と、たどり着くのに少し時間がかかるんです。変なお寿司を食べるんだったら、何回か我慢して九兵衛さんへ行ったほうがいいや、となるのには、それだけの時間がかかります。
庄司:私のお客様もリーズナブルなお店で買ってみたりするんですよ。うちでオーダー、仕立て、リメイク修理もするんですけれど、でものちのち「これからお金を使うんだったら、こういう使い方じゃなくて、何年先でも持っておきたいという物に使いたいって思うのよね」とおっしゃいます。洋服というのは、買って自分が身につけたときにテンションが上がって「私、すてき」と思うところに、女性はすごく喜びを感じたりするじゃないですか。そういう安価な服には全く感じられなかったと気づくのに何年かかかるんです。それが終わった後に、戻って来てくださったときにはうれしいですね。
渡辺:気持ちが上がらないとね。暑い寒いで洋服を買っているわけではないですからね。
庄司:男の人に私も言うんですけど、「女の人に横から腕組んでもらえたときに、『うわ、このスーツいい触り心地』と思われたいでしょ」っていう感じですよね。
広瀬:うまいな。それいいな。
鈴木:わからない人はわからないですね。
今田:スーツは、生地を見ますからね。
渡辺:やはり、ちょっと勉強の時間はかかると思います。